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日本を代表する元・国際公務員が明かす なぜ中国寄り?WHOの正体

3/26(木) 7:13配信

中央公論

赤阪清隆氏(フォーリン・プレスセンター理事長)

 赤阪氏は1993~97年にWHO(世界保健機関)の事務局に勤務し、当時の中嶋宏事務局長(国際連合傘下の国際機構を率いる長としては初めての日本人)を支えた。その前後にはGATT(関税及び貿易に関する一般協定、WTO〔世界貿易機関〕の前身)、OECD(経済協力開発機構)、国連広報担当事務次長など、計17年間にわたり国際公務員として活躍してきた。
 現在はフォーリン・プレスセンター理事長として、日本の立場を海外メディアに伝える一方で、海外メディアの日本報道を検証している。

中国のプレゼンス

――中国は「一帯一路」戦略でアフリカ諸国に投資を行い、テドロス・アダノムWHO事務局長(2017年就任)の出身国エチオピアも例外ではなく、そのため中国に忖度している─そういう臆測を見聞きします。

 テドロス氏個人のことについてはわかりませんが、WHOとしては中国を敵に回すことはできません。というのは、いまや分担金は世界第2位、感染症に対する自発的な拠出金も中国から多額を受け取っています。敵に回すと資金的な協力がストップしてしまう恐れがあるのです。

 これは国連本部にも当てはまりますが、トップが一期目に気をつけるべきことは常任理事国の五大国を怒らせないようにすること。なぜならトップ人事の拒否権を持つ五大国は、二期目の続投の可否を決める立場にあるからです。実際、ブトロス・ブトロス=ガーリ国連事務総長(1992~96年)はアメリカに二期目を阻止されました。

 WHOのトップは執行理事会のメンバーが選ぶため、五大国の拒否権はありません。ですが、中国を怒らせて益するところはない。テドロス氏と事務局長選挙を争って敗れたイギリスのデビッド・ナバロ氏も、「テドロスはよくやっている。中国を公の場で批判しても何の得にもならない」と語っていました。

 WHOの事務局長選挙は、熾烈な争いです。これまでは在外公館を使って票を獲得するのが巧みな日本や韓国がトップの座を射止めてきましたが、いまや中国が経済的に支援しているアフリカの票を集めることは容易で、有利な立場にあります。

 また、WHOのトップを補佐する事務局長補(Assistant Director-General)が10人ほどいて、その中に中国人が1人いますから、WHOは中国から監視されていると言ってもいいでしょうね。

――いま国際機関において、中国はどのような存在感を示していますか。

 中国は現在、マルチ(多国間)の国際体制から離脱しようとしているわけではなく、むしろ逆にアメリカに代わってリーダー役を買って出ています。WTOが典型です。トランプ政権が自国第一の姿勢をとっていることをこれ幸いとしているのでしょう。また、中国にとって学びの機会が多い機関には、積極的に参加しています。こちらはOECDが典型で、税制、金融政策の蓄積は中国にとって有益です。

 さらに各所で言われているように、中国はアメリカや西側諸国の手が届かないところで国際機関に対する影響力を高めているのです。現在、FAO(国連食糧農業機関)、UNIDO(国連工業開発機関)、ICAO(国際民間航空機関)、ITU(国際電気通信連合)で中国人がトップを占めています。これらは西側諸国が重視していない機関ですが、そこを狙って続々とトップを送り込んでいるのです。先日も『日本経済新聞』(二月十五日付)が「国連機関、紅色に染めるな」、『読売新聞』(2月23日付)も「国連機関トップ中国攻勢」と警鐘を鳴らしていたように、WIPO(世界知的所有権機関)のトップの座も狙っているようです。

 他方で、中国が邪魔されたくないテーマ、たとえば開発政策、アフリカに対する援助についてはOECDから相談をもちかけられても中国は応じません。つまり、中国は“良いとこ取り”なんです。

 目下、中国はWHOを重視していると思います。なぜなら習近平が自ら実績をアピールしても世界は信用しませんが、WHOが中国の対応を褒めれば公的なお墨付きを得られたことになるからです。もちろん中国のみならず、どの国であれ、自国の政策を正当化するために国際機関を利用しており、中国だけを批判するのは当たりませんが。

――WHOは台湾を年次総会から締め出してきましたが、今回、専門家会合への参加を認めましたね。

 中国は台湾が国際機関に参加することに対して神経をとがらせていますが、これは中台関係に限らず、しばしば国際機関が、先鋭化する対立の舞台になるケースがあります。

 たとえばUNESCO(国連教育科学文化機関)がパレスチナの加盟を2011年に認めた際には、アメリカが反発して拠出金をストップし、ついに17年にはイスラエルとともに脱退しました。そういう状況をふまえると、今回、台湾が専門家会合に参加するのは大きな出来事です。コロナウイルスには台湾も大きな影響を受けますし、WHOだって台湾から情報を得たいでしょうし。

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最終更新:3/26(木) 7:13
中央公論

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