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2010年代に“女性声優”が増えた理由とは? 「声優名鑑」掲載人数の変遷から考察

3/27(金) 10:26配信

リアルサウンド

 声優情報誌『声優グランプリ』の名物企画「声優名鑑」が今年で20年目の大きな節目を迎えた。当誌は1994年11月30日に季刊誌として創刊し、隔月化してvol.30まで刊行してきた。2000年末に姉妹誌『アニラジグランプリ』との合併を経て、現在まで続く声優専門の月刊誌として続いている。記念すべき令和最初の声優名鑑である「声優名鑑2020」では、掲載人数は男女合わせて1,502名。同企画のスタート時と比較すると、女性声優は約4.03倍、男性声優は約4.10倍の増加だ。

「声優名鑑」掲載人数の変遷グラフ

 「声優名鑑2020」には、水樹奈々や宮野真守といったテレビへの出演も数多いスター声優はもちろん、野沢雅子や羽佐間道夫といった大ベテラン、戸田恵子や萩原聖人といった俳優としても著名な人物や、日向もかや長谷川玲奈といった昨年デビューしたばかりの新人までを網羅。声優ファンとしては必携の付録であろう。

 この記事では、「声優名鑑」の掲載人数がこの20年でどのように増えてきたのか、実数値の変遷を改めて確認し、そこからどんな傾向が読み解けるのかを考察したい。

■「声優名鑑」掲載人数の変遷

 同誌で「声優名鑑」が最初に付録になったのは、今から19年前の2001年のこと。まずは近年の掲載人数と、ちょうど中盤にあたる2010年度、始まりとなった2001年、それぞれの掲載人数をみてみよう。

声優名鑑2020(令和最初)
女性編907名・男性編595名 合計1502名

声優名鑑2019(平成最後)
女性編847名・男性583名 合計1430名

声優名鑑2018
女性800名・男性571名 合計1371名

***

声優名鑑2010
女性536名・男性452名 合計988名

***

声優名鑑2001
女性225名・男性145名 合計370名

 声優名鑑2001年度版、このときの掲載人数は、男女合わせてわずか370名。現在のように男性編・女性編と分かれてはいなかった。それが声優名鑑2020では、男女合わせて1502名である。名鑑2001から名鑑2020にかけて男女それぞれの増加数は、男性声優は450人増えたのに対し、女性声優は682人の増加になっている。ここで、2001年版から2010年版を測ってみると、合計618人増加しているのに対し、2010年から同じ9年を数えてみた2019年度版(昨年度のもの)を数えてみると合計442人、2020年版の掲載人数で数えても、合計514人の増加になるのがわかる。つまり実数だけを見ると、実は2010年代よりも、2000年代のほうがより多く増えているのである。

 「声優名鑑」はあくまで声優雑誌の一企画であり、野球雑誌やサッカー雑誌の名鑑系企画とは違い、全声優事務所の全所属者が掲載されているわけではない。また、企画自体の認知度や、編集部の調査精度や編集方針による掲載人数の変動もあるだろう。だが、人気アニメ作品に出演する声優はほぼ網羅されており、シーンを俯瞰するためのデータとして一定の信頼性はある。では、特に掲載人数が増えた時期にはどのようなイベントが発生していたのだろうか。

■2010年代からはスマホゲーム登場の影響も

 声優増加の理由として、一般的に考えられているものには、以下の4点が挙げられるであろう。

1)2000年代終盤から現在に至るまで、TVアニメ作品は増加傾向にあった。

2)2010年代になってからはスマホゲームが誕生、声優職に携われる人数と幅が求められ始めた。

3)テレビやネットメディアへの露出が増えたことで、声優という職業が認知され始めた。

4)ライブやイベントに出演し、イベント収益を得ることがアニメ産業の経済的な面として求められるようになり、タレントやミュージシャンなど、様々な出自の人々が声優へと抜擢された。

 以下は、「アニメ産業レポート2019」サマリー版を参考に、TVアニメタイトル数・TVアニメ総制作分数の変遷を表したグラフだ。

 一時期は2005年を下回る作品数・制作分数になっているが、翌年からの顕著な伸びは、グラフを見て頂ければ一目瞭然だろう。作品数だけが増えても、実際の制作分数もついてこないと、本当の意味での増加とはいえないわけだが、最新の産業レポートとなる2019年度版では、2018年のTVアニメは史上2番目の制作分数と報告されており、アニメ人気に応えようとする制作陣営の力強さを感じられる。

 とはいえ、このグラフだけでは男女声優の増加数とは、いまいち一致しない感覚も残るだろう。ここで重要になるのが、スマートフォンゲームの登場ではないだろうか。特に、声優の演技力を堪能でき、ライブ興行にも繋がりやすい音楽を軸にした、キャラクター育成系のスマートフォンゲームに注目してみよう。

 男性向けであれば『THE IDOLM@STER』『ラブライブ!』の各シリーズ作品や、『BanG Dream!』『少女☆歌劇 レヴュースタァライト』などのブシロード系作品で、数多くの女性声優が新たにスポットライトを当てられてきた。

 女性向けであれば『アイドリッシュセブン』『あんさんぶるスターズ!』『THE IDOLM@STER SideM』『A3!』などのイケメン育成ゲーム作品群で、数年以上のキャリアを持つ若手がフックアップされる場所となってきた。つまり、音楽を取り扱ったリズムゲーム系の作品が男女問わずに人気を集めてきたのである。

 2010年代に上記の作品群や関連するゲームがスタートしたタイミングを、いちど列挙してみよう

『ラブライブ!』2010年6月
『アイドルマスター シンデレラガールズ』2011年11月28日
『アイドルマスター ミリオンライブ!』2013年2月27日
『ラブライブ! スクールアイドルフェスティバル』2013年4月15日
『アイドルマスター SideM』2014年7月17日
『アイドルマスター シンデレラガールズ スターライトステージ』2015年9月3日
『ラブライブ!サンシャイン!!』2015年2月26日(雑誌内で初告知された日)
『アイドリッシュセブン』2015年8月20日
『あんさんぶるスターズ!』2015年4月28日
『BanG Dream!』2015年1月
『A3!』2017年1月27日
『バンドリ! ガールズバンドパーティ!』2017年3月16日
『少女☆歌劇 レヴュースタァライト』2017年4月30日

 これらの作品では、作品の性質のみならず、男女においても起用される声優の傾向に違いがある。例えば、男性声優を中心にした作品の場合、完全な新人をいきなり起用するということが少なく、すでに10年以上活躍している声優でも積極的に起用する作品が多く、ベテランが求められることもしばしばある。かたや女性声優を中心にした作品の場合、それまで声優をやったことのない新人や、経験値の浅い声優をいきなり起用する作品が少なくない。

 最も顕著な例としてあげるとするなら、スマホゲーではないが、大御所の速水奨が『ヒプノシスマイク-Division Rap Battle-』に起用されたことが挙げられるし、今回の声優名鑑には掲載されなかったが、『BanG Dream!』ではバイオリニストのAyasaや現役の中学3年生である進藤あまねといった女性声優の起用が決定している。

 この傾向は、上記のデータで2010年と2020年を見比べれば一目瞭然の違いである。2001年から2010年にかけて、女性声優は311名、男性声優は307名の増加なのだが、2010年から2020年にかけては、女性声優は371名、男性声優は143名の増加で、女性声優の増加はほぼそのままで、男性声優の増加が一気に鈍化しているのだ。この名鑑企画の調査にいくらかの傾向があるにしても、特筆すべき部分ではないだろうか。

 「どこまでを声優としてみるべきか?」という議論は、声優ファンをはじめ多方面から聞こえてきたわけだが、こうして名鑑企画の調査を比較すると、領域が一気に拡大したのがよく感じ取れるだろう。

■「声優名鑑」が示す、業界の変化

 もともとは放送ナレーターや俳優が掛け持ちでやっていた声優という仕事が、日本ではアニメ文化の興隆とともに徐々に専門分化したことで、世界的にも類をみない専門職として認知されるに至った。2000年以降のアニメ文化、2010年以降のスマホゲームの興隆によって、彼らの活躍はますます陽の目を見ていると言えるだろう。『声優名鑑』の掲載人数の増加は、その証ともいえる。

 一方、新人声優の増加数に男女差が生まれており、学校卒業したての若年層ばかりが「新人」としてファンに認知される、というわけでもないのがポイントでもあるだろう。IPコンテンツや作品の制作時に、様々なビジネススキームを取り込み、産業ビジネスが多チャンネル化し、声優が「タレント化」してきたことで声優人口は一気に増大した。一芸に秀でたタレントやミュージシャンを起用する機会が増えたのは、その顕著な例にすぎないが、今回付録となった声優名鑑2020」には、その影響がダイレクトに反映されている。こうした状況は、まだまだ長く続くのではないだろうか。

草野虹

最終更新:3/27(金) 10:26
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