ここから本文です

戸田恵梨香、“表面的な美しさ”にこだわらず“命の強さ”表現「スカーレット」で開花した非凡な才能

3/27(金) 6:15配信

ザテレビジョン

3月28日(土)の放送で最終回を迎える連続テレビ小説「スカーレット」(毎週月~土曜朝8:00-8:15ほか、NHK総合ほか)。同作でヒロインを演じた戸田恵梨香について、フリーライターでドラマ・映画などエンタメ作品に関する記事を多数執筆する木俣冬が解説する。(※「スカーレット」「SPEC」に関するネタバレが含まれます)

【写真を見る】息子・武志(伊藤健太郎)を見つめる喜美子(戸田恵梨香)…何気ない日常に“強さ”を感じる1枚(ほか名シーン)

■ 苦しみと悲しみを全身にたたえ、それでも生きていくという強さ

戸田恵梨香は朝ドラ「スカーレット」で役者として大きく飛躍した。

そう感じたのは、最終週3月23日放送の第145話。信楽で陶芸家として生きる主人公・川原喜美子の半生を描くドラマの終盤、喜美子はひとり息子・武志(伊藤健太郎)の闘病に向き合う。

145話では、白血病になった武志の体調が次第に悪化し不安に打ち震えているときの喜美子の対応がじつにたくましかった。味がわからないから食事をする気がしないという武志に「食べんと力でえへん」と淡々と言う態度。

部屋にこもって、すでに亡くなった同じ病気だった少年の手紙を読んで「おれは生きたい」と泣く武志の頭をしっかり抱えたときの表情。こういった場面はたいてい、主人公が感情(主に哀感)をあふれさせることで、視聴者に感情移入させることが多いものだが、戸田恵梨香はそうしない。

どこまで本人の意志で、どこまで脚本や演出の領域なのかは定かではないが、喜美子は厳しい試練にひたすらじっと耐え忍んでいる。「食べな 力つかへん」なんてかなりぶっきらぼうにも聞こえるほど。そこには、悲しんでいても生きられない。生きるためには食べて栄養をつけなくてはいけないという根源的な視点がある。

武志の頭を抱えたときの喜美子の表情は、苦しみと悲しみを全身にたたえ、それでも生きていくという強さがあった。その様を“母”と限定してしまうことはもったいない。母であるし、川原喜美子というひとりの人間として、武志に向き合っているような印象も感じた。

成人した息子役の伊藤健太郎と喜美子を演じる戸田恵梨香の2ショット。朝ドラでは、若い役者が、あまり年齢の変わらない役者と母子役をやることがよくある。

自身の若さを抑え、息子を広く大きく包み込むことは難易度が高い。若い役者が実年齢より老けた役をやるとき、メイクで皺やシミを描き、白髪をつけ、背筋をやや丸め、ゆっくり動いたりしゃべったりするようなことがあるが、喜美子を演じる戸田恵梨香はいっさいそういうことをやっていない。

もっともまだ40代後半だからそんなに老けることもないのだが、極端に老けるよりも微妙に年をとったおばちゃんになるほうが逆に難しいともいえるだろう。

それを戸田恵梨香は長い時間、工房で土(陶芸)と共に生きてきた強さを滲ませてきた。しかも、ヘアメイクもあっさりめ、衣裳も質実剛健。スカートははかずパンツばかり。そこにはハードボイルドの風情すら漂う。表面的な可愛さ、美しさにこだわらない、こういう雰囲気の出せる女性の役者はなかなかいない。

■ 自分を信じて、もくもくと生きている人間の姿を

「スカーレット」に主演が決まったことが公表されたとき、戸田恵梨香は「大恋愛~僕を忘れる君と」(TBS系、2018年)で若年性アルツハイマーの役をやって、じょじょに記憶が薄れていくにつれ透明感を増すような儚い演技でたくさんの注目を浴びた。

とても華奢なからだをしていることもあって、脆さを感じさせる役が似合う。

だが、「スカーレット」では病気になるのは息子であって、戸田恵梨香は病気の息子を助けていく強い役を担った。土をこね、薪を積み上げ、徹夜で穴窯の火を見るというようなたくましさが必要な役である。元夫・八郎(松下洸平)にも歯に衣着せずものを言う。

こんな喜美子の原型は、戸田恵梨香のブレイクポイントとなった「SPEC」シリーズ(TBS系、2010年~)の主人公・当麻紗綾に私は見る。

天才的な頭脳を持ち、数々の難事件を解決していく当麻は、じつはSPECという特殊能力の持ち主で、世界を滅亡させようとする禍々しい力を最終的に自分の中に取り込むことで防ぐという偉業を果たす。

戸田恵梨香は当麻紗綾を演じるにあたり、ほぼノーメイクで挑んだ。言動はがさつ。でもほんとうは優しい。どんなに悲しいことがあってもモクモクとご飯を食べ闘いに備える。

特殊能力を使用するシーンの撮影で、酸素吸入器を傍らに置いて絶叫している戸田の姿を見たことのある私は、彼女が追い詰められるほどに力を無限に発揮する役者だと感じていた。

追い詰められ破壊的なエネルギーを発揮し、真っ白に燃え尽きるのは、あしたのジョー。でも戸田恵梨香は燃え尽きない。生き続ける。透明になり、周囲をその光で照らす。彼女の演技の背後に、天地創造のような荘厳な世界を見ることができる。

しかもその尊さが、「SPEC」のような奇想天外なSF作品ではなく、朝ドラというホームドラマで、ごくふつうの生活者のなかにも確かに息づいていることを戸田恵梨香は示してくれた。

朝起きて、ご飯をつくって食べて、仕事をして、家族や仲間と語らう。そんな日々の営みが世界に明かりを灯すのだ。日本のあちこちで、自分を信じてもくもくと生きている人間の姿を「スカーレット」で演じきった戸田恵梨香にありがとうと言いたい。(文・木俣冬)(ザテレビジョン)

最終更新:3/27(金) 6:15
ザテレビジョン

こんな記事も読まれています

あなたにおすすめの記事