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特徴的な髪形を想像させる絶妙な比喩 日向坂46『ソンナコトナイヨ』

3/28(土) 9:01配信

朝日新聞デジタル&[アンド]

【&M連載】いしわたり淳治のWORD HUNT

音楽バラエティー番組『関ジャム 完全燃SHOW』(テレビ朝日系)で披露するロジカルな歌詞解説が話題の作詞家いしわたり淳治。この連載では、いしわたりが歌詞、本、テレビ番組、映画、広告コピーなどから気になるフレーズを毎月ピックアップし、論評していく。今月は次の3本。

 1 “切りすぎた前髪 奈良美智の絵だ”(日向坂46『ソンナコトナイヨ』歌詞)
 2 “きらきら光る、つぶつぶ”(坪倉優介)
 3 “神様からいただいたものは自信にならない”(高嶋ちさ子)

最後に日々の雑感をつづったコラムも。そちらもぜひ楽しんでいただきたい。

■いしわたり淳治 今気になる三つのフレーズ

1 “切りすぎた前髪 奈良美智の絵だ”(日向坂46『ソンナコトナイヨ』歌詞)

一般的に比喩表現というのは、わかりにくい事柄を身近なものにたとえてわかりやすくしたり、人物の心理や状況を詩的かつ映像的に表現したりするために用いるものである。

日向坂46の新曲『ソンナコトナイヨ』は、Aメロが「春の風が吹いて 窓のカーテンを膨らませた まるで君が拗(す)ねた時の ほっぺたみたいに」で始まる。カーテンが風で膨れる様子は誰もが一度は見たことがあるだろうから、聞いた瞬間に間違いなくその映像は想像できる。

一方の「君」のことはまったく知らないけれど、前述のカーテンが「君」が拗ねてほっぺたをふくらます感じを想像させる誘い水の役目をしているから、聞き手の頭の中には「君」という女の子の姿が自然と浮かび上がる。

こんな風に、「君」は少しぶりっこなキャラクターなのかな、などと想像した時点で聞き手はその曲の中に自主的に参加している形になる。

ラブソングというのは、極端な言い方をすれば“他人の恋バナ”にすぎない。興味もないのに一方的に聞かされる赤の他人の恋バナは退屈に感じるものである。そのため、歌詞でもなるべく聞き手に興味を持ってもらえるように、仕掛けを作る必要がある。

つまり「カーテンが風で膨れる」や「拗ねてほっぺを膨らます」のような、聞き手が「こんな感じかな」と想像しやすいたとえを導入部に用いるのはとても意味のあることである。

しかしながら、いつまでも誰もがわかるような言葉ばかり書いていると当然、凡庸な歌詞になってしまうので、続くBメロでは、少し哲学的なことを書いてみようかとか、ドキッとすることを書いてみようかとか、作者はあれこれ手を考えるものである。

しかし、この曲は少し特殊でBメロでもたとえが続く。「切りすぎた前髪 奈良美智の絵だ」と「君」の髪形を表現するのである。そして、このたとえが絶妙だ。奈良美智と言われて、すぐにわからない人もたくさんいるだろう。でも調べたら誰もが「この絵のことか」となる、絶妙なワードなのである。

いわゆるデジタルネイティブ世代の若い子たちは何でもすぐ調べる。こうして歌詞の中に「調べる」という自主的な行動を持ち込むことで、さらに聞き手の参加意識は高まる。しかも画像を見たことで10人が10人、さっきまでまったく知らなかったはずの「君」の髪形を誤解することなく、その歌を聞くことになる。こうして、聞き手の頭の中の映像は作者の思惑の通りに、完璧にチューニングされてサビへと向かっていく。うまいなあと、思った。

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最終更新:3/28(土) 9:01
朝日新聞デジタル&[アンド]

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