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「描くことに捧げた生涯」個性派絵師・伊藤若冲は“駆け出し時代”からスゴかった

3/28(土) 11:00配信

文春オンライン

 昨年10月のこと。京都・嵐山、渡月橋のたもとに、新しい美術館が開かれた。名を福田美術館という。

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 時節柄、いま現在は勢いが小休止ではあるが、平常であれば京都には国内外から多くの人が押し寄せる。訪れる人はみな、彼の地に日本ならではの美を求めている。ならば数多の寺院建築、庭園、仏像などにくわえて、絵画作品もじっくりと味わってもらう場をつくろうではないか。そんな気概のもとで新設されたのがこの美術館である。

 同館が収蔵するのは、江戸時代から近代にかけての日本画コレクション約1500点。それらを活用しながら展開される展示は、京都ゆかりの作者・作品をしっかり観せることと、美術に特別詳しくなくても色、かたち、テーマ、物語などから誰もが楽しんで鑑賞できるものにすることに、心が砕かれている。

 現在観られる展示は、館のコンセプトにまことぴったりのものだ。「若冲誕生~葛藤の向こうがわ~」展。

自身の理想とする絵画の実現に邁進した、初期から晩年まで

 若冲とは、このところ人気が高まりっぱなしな絵師、伊藤若冲のことである。

 京都錦小路の青物問屋「枡屋」の長男として生を享け、23歳で家業を継承。その傍らで絵を描きはじめ、40歳を機に家督を実弟に譲り、芸術の道に専心せんと決めたのが若冲だった。

 人並み外れた集中力で、画業の進境は著しく、あっという間に実力・人気とも京の都を代表する存在となった。類まれな観察眼と豊富なイマジネーションを交互に駆使して、独自の創意に達する画風は、オリジナリティが際立つ。動植物の図柄が30幅にわたって連なる大作《動植綵絵》は、京都・相国寺に寄進された。水墨画も無数に手がけ、自在な運筆であらゆるものを生命感たっぷりに描き出した。

 85歳で没するまで、自身の理想とする絵画の実現に邁進した若冲の、初期から晩年までの作品としっかり対面できるのが同展となる。

新発見・初公開の作品も

 展示の目玉とされるのが、新たに発見されこれが本邦初公開となる《蕪に双鶏図》だ。タイトルの通り、そこかしこに蕪が植えられた地面の上を、精細に描き込まれた鶏が歩き回っている。蕪の葉のかたち、鶏の羽毛の質感と動きなど、つい見入ってしまう細部が満載のこの絵、どうやら若冲が絵に手を染め始めた最初期、30代のころの作品と目される。

 何を描き出したいのか、どんな境地を目指すのかが明快だからだろう、駆け出しの時代の作とはいえ堂々たる貫禄が感じられるし、明らかに若冲の筆によるものだろうという個性もくっきり表れ出ている。

 同作以外にも鶏を描いた作品は多数出品されている。時期ごとの描きっぷりの変化を追ってみるのも楽しい。

 他にも生きものならば鹿や蟹、魚、龍や鳳凰……。また数々の草花、達磨、阿弥陀如来、髑髏などなど。目に見えるものから見えないものまで、何でも描き尽くした若冲の、「描くことに捧げた生涯」の一端を堪能してみよう。

山内 宏泰

最終更新:3/28(土) 11:00
文春オンライン

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