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東京五輪・パラ延期 「アスリートファースト」ならもっと早い決断が必要ではなかったか

3/29(日) 9:03配信

朝日新聞デジタル&[アンド]

【&M連載】今日からランナー

東京オリンピック・パラリンピックの開催が「1年程度」延期されるらしい。IOC(国際オリンピック委員会)を筆頭に、日本政府や東京都、JOC(日本オリンピック委員会)、大会組織委員会など、これまで「通常開催」を主張し続けていた人たちが手のひらを返したからだ。

最後は、IOCのバッハ会長と安倍晋三首相が電話で協議して決まったという。安倍首相は記者団に「世界のアスリートが最高のコンディションでプレーでき、観客の皆さんにとって安全で安心な大会にするため、延期を検討してもらえないかと提案した」と話している。新型コロナウイルス日本上陸の一報から実に2カ月半で、ようやく方向性が見えてきたかっこうだ。

しかし、今夏の開催が困難なことは、ごくフツーの一般人もとっくにわかっていたことだと思う。世界保健機関(WHO)がパンデミック宣言をし(3月11日)、世界中で入国制限や外出禁止が始まっている中で、予定通り開催できると思う方がおかしかった。今回、手のひら返しをした人たちは、判で押したように「アスリートファースト」を口にしているが、本当に選手のことを考えれば、もっと早くに決断しなければならなかったことである。なぜなら、アスリートにとっては試合本番よりも「本番に向けた準備」が何より重要だからだ。

例えば、こんな話があった。JOC理事で1988年ソウル五輪柔道女子銅メダリストの山口香さんが20日、毎日新聞の取材に「アスリートが十分に練習できていない現状では延期すべきだ」と話し、記事にもなった。JOC内部では、この発言に批判的な受け止めもあったという。山下泰裕会長は「JOCの中の人が、そういう発言をするのは極めて残念」と話している。

しかし、山口理事はアスリートサイドに立って、ごく当たり前のことを言ったに過ぎない。選手が本番にピークを合わせるためには、精緻(せいち)な準備が必要だからだ。以前、私が取材したマラソン世界記録保持者のエリウド・キプチョゲ選手(ケニア)はターゲットレースの4カ月前から準備に入ると語っていた。

世界のアスリートの中には、新型コロナウイルスで行動が制限され、練習環境の確保が難しくなっている人や、自宅待機を余儀なくされている人さえいるという。選手たちが本番前に調整具合などを確認するつもりでいた大会も軒並み中止されている。これでは、たとえ開幕前に新型コロナウイルスを制圧できたとしても、選手がベストなコンディションで臨めないことは誰にでも想像できる。予定通りの開催は、端から無理な話だった。

にもかかわらず、延期決定までにこれだけ時間がかかったのは、国内の政治的な思惑や、IOCに入るはずの莫大(ばくだい)な放映権料の分配、経済的損失をどうするかといった視点からの“躊躇(ちゅうちょ)”ではなかったか。

それが何より証拠には、マラソンの会場が東京から札幌に移されたときと同様に、選手がヒアリングされたという話はついぞ聞かない。それどころか、前述の山口理事のように選手本位の発言が批判にさらされる始末である。いまさら「アスリートファースト」などという言葉で選手をダシにするべきではないと思う。

今年1月、世界陸連(ワールドアスレティックス)が“厚底シューズ”を規制するのではないかと騒ぎになった際、マラソン日本記録保持者の大迫傑選手(ナイキ)がツイッターで〈どっちでも良いからさっさと決めてくれーい! 僕ら選手はあるものを最大限生かして走るだけ!それだけ!〉とつぶやいていた。選手は常に決められたルールに従うだけなのだ。

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最終更新:3/29(日) 9:03
朝日新聞デジタル&[アンド]

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