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巨匠クストリッツァがウルグアイの元大統領を撮った理由。

3/30(月) 20:32配信

フィガロジャポン

旧ユーゴスラビア出身の映画監督エミール・クストリッツァは、自国の複雑な状況を知らしめるために撮った『アンダーグラウンド』(1995年)でカンヌ国際映画祭パルムドールに輝くなど、数々の映画賞を受賞している巨匠だ。そんな彼の最新作は南米ウルグアイの第40代大統領ホセ・ムヒカ(2010年~15年に在任)についてのドキュメンタリー『世界でいちばん貧しい大統領 愛と闘争の男、ホセ・ムヒカ』である。東欧の巨匠が、なぜ遠く離れた南米に住む大統領に興味を持ったのか?

エミール・クストリッツァ監督が贈る、魅惑の短編集。

トラクターを運転する大統領とは!?

――ホセ・ムヒカ元大統領のことは、何年か前にフランスにいた時に知ったそうですが、ドキュメンタリーを撮るにいたった経緯は?

バンド(*)のマネージャーから、トラクターを運転する大統領がいると聞いたんだ。自分で家を修理したり、ほかの政治家たちがやらないことをやる人物で、大統領としても成功しているって。それで、どんな人なんだろう?って興味をそそられて伝記も読んだ。ファシスト政権と闘い、13年間投獄され、その後大統領になった。読めば読むほど興味が湧いて、飛行機に乗って会いに行った。それが8年くらい前のことだ。

結果的に、このドキュメンタリーの構造は、大統領最後の日という1日をベースに彼のいろいろな側面を詰め込むことになった。彼は撮影にもとても協力的で、私がいつでも彼にアクセスできるようにしてくれた。友人にもなり、セルビアの僕の家に遊びに来てくれて、家族ぐるみの付き合いをするようになった。本作には本当にエモーショナルな思い入れがあるんだ。

*自らが所属するエミール・クストリッツァ&ノー・スモーキング・オーケストラ。

――彼について、伝記や記事には書かれていなかったことで、会って初めてわかったことは?

初めてぺぺ(ムヒカ)と会ったのは、彼が大統領として仕事をする最後の日だった。ぺぺの家にも行ったよ。彼の第一印象は、こんな謙虚な大統領はいない、ということだ。家も質素なのだけれど、人生観もシンプルだ。彼の人生には宮殿などは登場しない。昨今の政治家たちの腐敗した“症状”はまったく見られなかった。僕は、目の前に自分が理想とする人物が立っていることに、とても幸せな気持ちになった。

――ムヒカは来日もして、日本でも大変人気があります。彼を唯一無二の存在にしているものとは何でしょうか?

人には、生まれつき威厳が備わっている人と備わっていない人がいる。彼は前者だ。身長が高かったり体格がよかったりするわけではないけれど、彼は堂々としている。何かあった時に、腹のくくり方が違うんだね。しかも謙虚で、よき人間であり続けている。そのことが世界で彼を唯一無二の存在にしていると思う。歴史を振り返っても彼のような人はいないんだ。

彼は人生で、大きなリスクをたくさん取ってきている。すべて大義のためだ。13年間、投獄されたことによって培ったものの見方や価値観もあるだろう。政権のトップに上り詰めても、大統領という肩書がもたらす恩恵をいっさい手にせずに、社会主義者のままいた唯一の人物だと思う。多くの政治家は銀行や大企業などによって選ばれた人々だ。大衆から選ばれた人というのは、ほとんどいない。そういう意味でも、彼は最後の偉大な政治家であり、大統領といえるかもしれない。彼が投獄されていた時、そこから見る世の中、感じることもたくさんあったはず。彼には危険なところもある。妻とともに革命家としても知られているしね。

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最終更新:3/30(月) 20:32
フィガロジャポン

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