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草なぎ剛「今まで演じてきた中で一番クズな役かもしれない」

4/2(木) 7:00配信

キネマ旬報WEB

市井昌秀監督と草なぎ剛の熱い思いが詰まった、人間くさい家族の物語

市井昌秀が、12年間温めてきた『両親への想い』を込めたオリジナル脚本の監督作「台風家族」。葬儀屋だった両親が銀行強盗を働き、奪った2千万円と共に姿を消して10年。時効を機に両親を亡きものとして葬儀を行うべく、肉親の事件によって人生を狂わされた鈴木家の4兄妹が、久々に実家で顔を合わせる。長男の妻と娘、長女の恋人までも揃った鈴木家では、それまでの確執や遺産を巡る様々な思惑と感情が交錯し、台風のような一日が繰り広げられる。一筋縄ではいかない人間くささに溢れた家族の物語だ。
 主な登場人物と舞台は、鈴木家の家族と実家。地味になりかねない題材だが、めまぐるしく展開する物語と細部にまでこだわり抜いた演出で、終始飽きさせない。喜劇にも悲劇にも見え、思いもよらぬ結末には感動もある。長男の主人公・小鉄役の草なぎ剛、長女と弟役のMEGUMIと中村倫也、長女の恋人役の若葉竜也、小鉄の妻子役の尾野真千子と甲田まひるといった多彩なキャスト陣が、熱い芝居をぶつけ合うのも見所だ。

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映画が公開できるのは当たり前のことではない

 劇場公開時以来に本篇を観直すと、物語を知っているからこそわかる伏線や細かな演出の発見も多く、先の見えない展開や市井作品らしい疾走感を楽しんだ初見時とは違った面白さがあった。さらに、市井監督、主演の草なぎ、プロデューサーによるオーディオコメンタリーでは、本作に込めた想いの深さや撮影時の想い出と共に、伏線や演出についても解説されており、緻密に練られた作品の魅力がより一層深く理解できる。また、「今まで演じてきた中で一番クズな役かもしれない」とも言う草なぎが、撮影序盤の迷いやクライマックス撮影時の不安などを吐露し、どう演じるべきか悩んだことや新しい自分を引き出してもらえた感慨を率直に語っているのも、あまり役作りをしないと発言してきていた人物だけに興味深い。俳優としてのターニングポイントにあたる作品であることが窺える。
 豪華版の特典映像ディスクにも見所が多い。ある真夏の一日を描いているが、メイキングでは、リアルに汗をかきながら行われた猛暑の中での撮影現場の様子や、ラストシーン撮影前後に収録したと思われるキャスト陣のコメント映像から、現場の充実ぶりや熱気が伝わってくる。また、諸事情から公開中止の恐れもあっただけに、舞台挨拶で市井監督や草なぎらが、観客への感謝や公開の喜びと共に、「映画は観客に観てもらってこそ完成する」「映画が公開できるのは当たり前のことではない」と語る言葉には重みがあり、市井監督と草なぎにとって特別な作品となったことが伝わってくる。様々な意味でも熱い想いが詰まった作品だ。

文=天本伸一郎/制作:キネマ旬報社(キネマ旬報4月上旬号より転載)

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最終更新:4/2(木) 7:00
キネマ旬報WEB

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