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日本独特の発酵食品をつくる麹菌は日本にしかいない!? vol.2

4/3(金) 12:05配信

Meiji.net

日本独特の発酵食品をつくる麹菌は日本にしかいない!? vol.2

中島 春紫(明治大学 農学部 教授)

いま、私たちの周りには発酵食品がたくさんあります。味噌や醤油をはじめ、納豆や漬物、ヨーグルトやチーズなど。発酵食品は世界中の国、民族にありますが、そのなかでも、日本の発酵食品の文化は豊かだと言います。さらに、発酵食品をもたらしてくれる微生物を食品以外の分野にも応用していく技術が研究されています。

◇麹菌は日本人が飼い馴らした微生物

 日本の発酵食品文化は、世界の他の地域と比べて特殊な面があります。まず、日本で発酵食品をつくるときの代表的な菌はアスペルギルス・オリゼー(またはA・オリゼー)という学名を持つ麹菌ですが、この麹菌は、事実上、日本特産なのです。

 実は、麹菌は、漢字で表記すると発酵に使われる微生物のことですが、「コウジキン」とカタカナで表記すると、これはアスペルギルス属のカビを意味します。

 このA・オリゼーと非常によく似たカビに、アスペルギルス・フラバス(A・フラバス)という緑色のカビがあります。これはアジア全域にいるカビですが、肝臓障害を起こし、発がん物質となるアフラトキシンという毒をつくります。そのため、東南アジアでは、緑色のカビは触ってはいけないとされています。

 このA・フラバスとA・オリゼーは、見分けがつかないほどよく似ているのですが、違いは、A・オリゼーはアフラトキシンをつくらないこと、また、デンプンを分解する酵素をつくる遺伝子が3倍に増幅されていること、胞子の中に核がいくつかあり、その分だけ発芽が早く、安定性が良いことが挙げられます。

 実は、その違いは、ことごとく、人が行う発酵醸造にとって都合の良い性質なのです。そのように便利なカビが、世界にはいなくて、日本にだけ生育しているとはあまりにも都合が良すぎます。

 おそらく、たまたま毒をつくらないA・フラバスを見つけた古代の日本人が、そのカビを飼い慣らし、増やしたものがA・オリゼーとなり、麹菌とよばれるようになったのではないかと考えられます。

 日本では、古くから味噌や酒の発酵醸造に使われていた麹菌ですが、自然界の中では強いカビではありません。

 そのため、中国やアジアのように、穀物をただ室に入れておくと、他のカビに負けて、麹菌が繁殖することはまずないのです。

 そこで、酒を造る場合であれば、お米を蒸して殺菌し、清潔な部屋の中で広げ、そこに純粋培養した麹菌の胞子を撒くのです。すると、お米の1粒1粒に麹菌が繁殖して一気に生育するというわけです。

 この純粋培養した麹菌を売る専門の業者が、なんと、室町時代にはすでに出現していたのです。これは本当に驚くべきことです。

 微生物の純粋培養技術を確立したのは、19世紀の末にドイツのコッホとされています。ところが日本では、14世紀には、発酵に使う希有なカビの純粋培養に成功していて、それを商売にしていたのです。

 現代でも、家庭で甘酒や味噌をつくる場合などは麹を買ってきます。個人で麹菌を生やすのは、現在でも難しくて、なかなか上手くいかないからです。

 14世紀にその技術が確立していたということは、それ以前に日本人は毒をつくらないA・フラバスを見つけ、さまざまな試行錯誤を繰り返し、長い年月をかけて、このカビを飼い馴らしてきたということだと思います。

 その結果、日本酒をはじめ、味噌や醤油など、日本独特の発酵食品の多くが、このA・オリゼーという麹菌をベースにつくられるようになったのです。

※取材日:2019年10月

次回:さらに、未来に向けて微生物の活用の幅を広げる(4月4日12時公開予定)

中島 春紫(明治大学 農学部 教授)

最終更新:4/3(金) 12:05
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