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地方政治を題材に戯画的な現状を諷刺

4/3(金) 7:00配信

Book Bang

 表題作の主人公は、ある東北の村に住む四十四歳。就職に失敗し、父の経営する運送会社の後継ぎにも選ばれず、その父の根回しで地元の村議に収まった。しかし目的も希望もなく、人妻クラブで知り合った女との逢瀬で鬱憤を晴らしている。

 村長選挙を機に、この人口二千五百人の地方都市が二分される。主人公の幼なじみで、過疎化の進む村の再興に燃える候補者と、村役場の元職員で、前村長と県議の後ろ盾がある候補者のうち、主人公は初め前者に共鳴するが、後者の陣営に脅迫されると簡単に鞍替えし、幼なじみへの妨害に精を出す。自分を正当化する主人公の言葉には、昔から人気者だった幼なじみに対するコンプレックス、そして村と自分自身への深い絶望と冷笑が窺える。

 この精神的な「幼な子」による大義なき聖戦は、意外な結末を迎える。詳細は読んで確かめていただきたいが、一点指摘すべきは、本作の結末で主人公が振るうテロまがいの暴力もまた、何の理念もない点で彼の荒涼たる人生の延長にすぎないことだ。

 たとえば、大江健三郎の「政治少年死す」では、国家主義者の主人公が誇大妄想に酔って革新政党の大物政治家を暗殺し、監獄で自殺する。この主人公は、自分の物語を完成させた満足感に浸って死ぬのに対し、本作の主人公は、生の実感を与える物語や信念さえも奪われている。ここに本作の特徴がある。地方政治を諷刺する本作は、全体的に戯画的な雰囲気を備えるが、このリアリティーの稀薄さは、むしろ現状の忠実な反映でもあるだろう。

 それを念頭に、本書に併録された「天空の絵描きたち」を読むと、高層ビルの窓拭きという、死と隣り合わせの職業に従事する人々の、緊張感に満ちた本音の関係が実に生々しく見えてくる。こちらも決して希望に溢れる作品ではないが、二作を併せ読むことで、現代における生きづらさとは何か、さまざまな視点から考えることができるだろう。

[レビュアー]武田将明(東京大学准教授・評論家)

新潮社 週刊新潮 2020年4月2日 掲載

新潮社

最終更新:4/3(金) 7:00
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