ラコステといえば、ワニのマークでおなじみのブランドだ。その創設者でもあるルネ・ラコステは、テニスラケットを担いで単身アメリカに渡り、1926年、27年と全米選手権(現在の全米オープン)を連覇している名テニス・プレーヤーだ。
優勝回数は60回を超え、全盛期には70ゲーム負け知らずだったというから、相当な強者である。テニスで有名なラコステだが、実はゴルフもうまく、ハンディ6の上級者だったことはあまり知られていない。
また、ラコステの伴侶となったシモーヌ・ティオン・ド・ラ・ショームは、フランスからたった一人でドーバー海峡を超え、1927年全英女子アマチュア選手権に出場、英国人以外で初めて優勝トロフィーを手にしたゴルファーだ。
彼女もヨーロッパ各国のナショナル選手権に出場し、17回の優勝を飾っている。意外にも、ラコステ家はゴルフになじみが深いのだ。
この2人のサラブレッドの間に、カトリーヌという女の子が生まれた。両親譲りの運動能力と、ラコステ家の家訓よろしく「不退転の決意で、決してあきらめない」精神力を持ち合わせた彼女は、素晴らしいアマチュア・ゴルファーへと育っていく。
1967年、カトリーヌ・ラコステはまだ無名のアマチュア・ゴルファーだったが、両親がそうだったように、フランスから単身大西洋を渡り、全米女子オープンに参戦した。
そのとき、父・ルネが娘に授けたアドバイスが表題の言葉である。
カトリーヌにとっては未知の土地、バージニア州ホットスプリングスでは、黒髪のフランス人を出迎える者もおらず、新聞はサンドラ・ヘイニーをはじめトッププロにだけ注目していた。
それもそのはず、伝統ある全米女子オープンの歴代優勝者は、その時代のアメリカ人有力プロばかり。過去に外国人の優勝者はいなかったのだ。
練習ラウンドのあと、カトリーヌはホテルで食事をとっていた。その隣の席に座っていたのが、同じホテルに宿泊していた高校教師のウィリアム・プレストン氏と妻、そして2人の小さな娘だった。
カトリーヌには人を惹きつける魅力が備わっていて、プレストン一家はたちまち彼女の応援団になってしまった。気丈にもたった一人で大舞台に参戦してきたフランス人に、判官びいきで応援したくなる気持ちはなんとなくわかる気がする。
プレストン家の応援が励みになったのか、初日のカトリーヌは絶好調。首位のサンドラ・ヘイニーに1打及ばなかったものの71で2位につけ、翌日の朝刊には「ドゴールの秘密兵器」と紹介記事が載った。
カトリーヌの得意クラブはドライビングアイアンだった。2日目も1番アイアンが冴え、トッププロのパティ・バーグが目を丸くしたほどだった。
有力プロがスコアを伸ばせず苦労するなか、カトリーヌはアマチュアらしくのびのびとプレーして70の好スコア、一躍トップに躍り出た。1946年の第1回大会以来、アマチュアがトップに立ったのは初の出来事だった。
プレストン一家は最終日までカトリーヌを応援する決意を固め、2人の小さな娘たちもすっかりファンになっていた。カトリーヌは毎晩食事をしながら、その日のプレーのすべてを詳細にプレストン一家に話して聞かせ、プレストン氏はそれをメモしていた。
3日目もパー5の2打目に1番アイアンを駆使し、強気のパットで攻めたカトリーヌは2位グループに5打差をつけて首位をキープした。
最終日の朝、プレストン一家の様子は尋常ではなく、2人の子どもたちまで笑顔を忘れ、緊張してひきつった顔をしていたらしい。さすがのカトリーヌも、疲労と緊張でショットが少しずつブレ始め、強豪たちはじわじわと追い上げてきた。
17番パー5に来たとき、カトリーヌのアドバンテージはたったの1打にまで詰め寄られていた。足は鉛のように重く、首の周りが凝り固まっていた。
そのとき、プレストン家の末娘、3歳のキャシーが声をかけたのだ。
「カトリーヌ、あとでパーティしようね。だって、あしたはサヨナラだから」
この言葉を聞いて、カトリーヌは内からみなぎってくるものを感じたという。
「3歳のこんな子が自分と同じ72ホールを歩いて応援してくれている。今にもくじけそうな自分が恥ずかしい」
そう感じたカトリーヌは、左ドッグレッグの最短ラインである森の上を狙い、プロでもやらないような冒険のショートカットショットを毅然と放った。
ボールはピンまで150ヤードの地点まで飛び、ここで2オンしてバーディを奪ったカトリーヌは、そのままビクトリーロードを歩き切った。
このときのアメリカ女子ゴルフ界は第1次黄金期とよばれ、強豪がひしめいていた。そんななか、フランスの無名なアマチュアにトロフィーを奪われ、新聞は「ラコステ・ショック」と書き立てたものだ。
のちに、ある出版社からの依頼で、プレストン氏はカトリーヌと過ごした4日間を詳細にまとめた一冊を出版し、45万部も売れた。食事をしながら聞いた試合中の話をメモしていたのが役立ったのだ。
最終更新:4/5(日) 6:05
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