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毒を注入して奴隷化 「ゴキブリ」にとって最悪の天敵とは?

4/6(月) 7:00配信

Book Bang

 例年より早く桜が開花。東京では観測史上2番目に早い満開となった。
 桜を眺めながら春の訪れを感じたいものだが、この時期から心配しなくてはならないことがある。
 視界の端を一瞬で横切る素早さ。光を受けてツヤツヤと輝く黒茶色の姿態――そう、ゴキブリだ。

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 ゴキブリは3月頃から活動が活発になり、5月下旬から大繁殖し始めるため、早めの対策が必要だそうだ。
 また、ドラッグストアの店員によると、家の中でいくら薬剤駆除しても外から入ってくる、という。そこで勧められたのは、窓の隙間に外側から吹き付けるタイプのスプレーだ。
 タワーマンション住まいでもない限り、追撃スプレーは、日本では必需品といってもいいかもしれない。

 よく耳にするのは、「部屋でゴキブリ1匹見たら、100匹はいる」という話だが、昆虫・微生物の研究者である成田聡子さんによると、クロゴキブリのメスは卵が22~28個入った卵鞘(らんしょう)を、一生で15~20回ほど産むそうで、いわく、「家にメスのゴキブリが1匹出たら、500匹はいると思え、が正確と思われます」と語る。

 そんなゴキブリにも恐ろしい天敵がいることはご存知だろうか? 
 その天敵とは、「エメラルドゴキブリバチ」だ。
 寄生(パラサイト)して子孫繁栄のためにゴキブリを奴隷にするというが、あの素早くて生命力の強いゴキブリをこのハチはどう攻略するのだろうか。
 前出の成田さんが執筆した著書『えげつない! 寄生生物』から、その手口を紹介する。

「エメラルドゴキブリバチは、最初に逃げまどうゴキブリの上から覆いかぶさり、顎でかみついて身動きを取れないようにします。そして、すばやく針を刺します。針を刺す場所は、かなり厳密です。
 どんな場所に針を刺していたかについて、2003年に行われた研究で明らかになりました。ハチの毒がゴキブリの胸部神経節に入っていることが分かったのです。しかも、その場所に毒を注入されることによって、ゴキブリは前肢が麻痺しました。
 この1回目の麻酔は、2回目の注入のための準備です。前肢が麻痺したゴキブリはほとんど動けなくなります。その間に、より正確な場所を狙ってゴキブリの脳へ毒を送り込みます。
 次の2回目の注入では、ゴキブリの逃避反射を制御する神経細胞を狙ってハチの毒が流入しています。つまり、1回目の注入で、ゴキブリを暴れないようにし、2回目の注入で「逃げる」という行動そのものを抑えていたのです。
 2回目の注入の効果について明らかにした2007年の論文があります。この論文では、エメラルドゴキブリバチの毒が神経伝達物質であるオクトパミンの受容体をブロックし、それによって「逃げる」という行動を抑制していたことが明らかとなっています」

 体長2センチほどのエメラルドゴキブリバチに毒を注入されたゴキブリは、しばらくして麻酔から覚め、放心状態になるが、飛んだり、素早く方向転換したりという能力は損なわれていない。それなのに、このハチは悠々とゴキブリの2本の触角を半分に切り落としにかかるのだ。

 周囲の状況を察知するためにとても大事な触角を切られたゴキブリは、もはやハチのなすがままの奴隷となる。
 ハチはまるで犬の散歩をするように、短くなった触角をちょんちょんと引っ張って、ゴキブリを自分の巣穴に連れ込むと、その足の付け根あたりに自分の卵を産み付け、巣穴を出て入り口をふさいでしまう。
 哀れなゴキブリは、逃げることを忘れたまま生きながらに孵った幼虫に体内を食い荒らされ、さらに子が蛹となってもその黒茶色の外殻をシェルターにして、ハチの子供を守り続ける。

 やがて、ゴキブリの体を破って出てくる成虫となったエメラルドゴキブリバチ。
 ゴキブリの亡骸を後に巣穴を出ると、名前のとおりメタリック色に輝く体に太陽の陽を受けて飛び立っていく――。

 このエメラルドゴキブリバチの能力を利用してゴキブリを駆除できないか、成田さんに聞いたところ

「残念ながら、このハチは縄張り意識が強くて広範囲に広がりません。それに、ゴキブリを狩るのは産卵のためですが、1匹が生む数は一生で数10個。とてもゴキブリの繁殖力には追い付きませんね」

 と期待した答えは得られなかった。

 人間とゴキブリの戦いはまだまだ続きそうだが、無敵だと思われていたゴキブリにも天敵がいると思うと、少しは気が楽になるかもしれない……。

新潮社 2020年4月6日 掲載

新潮社

最終更新:4/6(月) 9:36
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