ここから本文です

サニブラウンが明かした「五輪延期」への決意

4/7(火) 17:42配信

ニューズウィーク日本版

<東京五輪の1年延期を受けて、陸上の日本記録保持者サニブラウンは何を思うのか。IOCのアスリート軽視の姿勢に翻弄される選手たちの苦境と本音に迫る。本誌4月14日号「ルポ 五輪延期」特集より>

東京五輪延期の知らせに、世界の多くの選手から安堵の声が出た。20200414issue_cover200.jpg新型コロナウイルスが世界に蔓延し、3月に入り感染者、死者の数が日を追うごとに増加。欧米各国では練習場所の閉鎖、外出規制や禁止令が敷かれるなど、選手たちは非常事態に陥った。

彼らの声が「五輪まであと少しなのに、練習できない」から「感染したらどうしよう」に変わるまで、さほど時間はかからなかった。五輪の舞台よりも、自身や家族の健康、そして安全のほうが重要だ。

五輪延期のニュースに空虚感を感じつつも、好意的に、そして前向きに受け入れた選手のほうが多かった。それだけ彼らは追い詰められていたのだ。

「練習場所が見つからない」陸上男子100メートルの日本記録を持つサニブラウン・アブデル・ハキーム(21)も、新型コロナウイルスによる影響を肌で感じていた1人だ。

3月12日、米国の大学スポーツに大激震が走った。新型コロナウイルスの影響で、全米大学体育協会(NCAA)がトーナメントの真っ最中だったバスケットボールを含め、全ての大学スポーツの中止を発表した。バスケットのトーナメントは全米が熱狂する「マーチ・マッドネス(3月の狂乱)」と呼ばれる一大イベントで、中止になるのは史上初だ。

サニブラウンが拠点にする米フロリダ大学は授業をオンラインに移行し、スポーツ施設も閉鎖になった。「僕らはどうなるんですか」。そんな不安も抱えつつ、コーチたちが見つけてきた練習場所で練習を再開したが、翌週には「(使っていた)トラックが閉鎖になって、また練習場所がなくなっちゃいましたよ」と難しい状況に置かれた。

サニブラウン自身、明るく振る舞ってはいたが、その言葉の端々から不安が見え隠れしていた。米政府によるヨーロッパからの渡航者受け入れの禁止で、予定していた試合の中止や延期が相次ぐ。高校生の頃から小さなことには動じない性格のサニブラウンが「五輪どうなるんですかね」と、先の見えない状況に、感情を吐露することもあった。

延期の決定に驚きはなかった。むしろ先行きが見えない状況から抜け出し、すっきりしているように見えた。だから切り替えも早かった。

「去年はシーズンが長くて、ほとんど休みもなく五輪に向けたトレーニングをしていたので、 体のケアも含めてコーチと相談しながらやっていきたい。五輪も延期になったし、今のところ試合の予定もないですが、気持ちを引き締めてやっていかないといけないですね」

<従順だったはずの選手たちが反旗>

五輪は特別かつ崇高──。そんな言葉をIOC(国際オリンピック委員会)のトーマス・バッハ会長はこれまで何度、免罪符のように使ってきたのだろう。しかし今回ばかりはそれは通用しなかった。

3月中旬にIOCと安倍晋三首相が予定どおり五輪を行うと発表すると、スポーツ界から反発の声が、SNS風に言うと「大炎上」した。バッハは選手たちがどんな犠牲を払っても、どんな状況でも五輪に参加すると考えていたのだろう。

しかし従順な「飼い犬」だったはずの選手たちは、この局面で牙をむいた。

ロンドン、リオ両五輪の陸上三段跳びを連覇したクリスチャン・テイラー(アメリカ)は、自ら代表を務める陸上選手ユニオンのネットワークを使い、世界各国の4000選手にアンケートを実施。78%が延期を希望し、87%が新型コロナウイルスの流行が五輪準備に悪影響を及ぼしている、という回答結果をIOCに送り付けた。

「満足に練習ができないから延期を希望したわけじゃない。世界各国の政府が『家にいろ』と言っているのに、僕たちがウイルスへの恐怖と闘いながら練習しなきゃいけない状況は間違っている。IOCは傲慢過ぎる」とテイラーは訴える。

IOCの延期決定に先立って、カナダやオーストラリアの五輪委員会などが、五輪が延期されない場合、参加を見合わせるという発表をした。

リオ五輪で50キロ競歩4位だったカナダのエバン・ダンフィーは「2月中旬頃から五輪開催は厳しいと感じていたので、カナダ五輪委員会の決断を誇らしく思った。スポーツ選手の前に僕らは『よい市民』でなければならない」と言う。

延期を好意的に受け止める選手が多いなか、競技引退や五輪挑戦を断念した選手も少なからず存在する。東京五輪後にプロ転向の意思を示していたあるアメリカのアマチュアボクシング選手は、延期を受けて今季中のプロ転向をほのめかしている。

ほかにも東京五輪まで現役を続行するかどうかは今季終了後に考えたい、と話すベテラン選手は多い。東京五輪までなんとか、と歯を食いしばってやってきた選手にとって、あと1年という数字は重くのしかかる。

1/2ページ

最終更新:4/7(火) 17:42
ニューズウィーク日本版

こんな記事も読まれています

あなたにおすすめの記事