新型コロナウイルス感染拡大の影響で、世界のプロゴルフ界も休止状態になっている。
4大メジャーのうちすでに「マスターズ」「全米プロ」「全米オープン」はそれぞれ延期が決まり、「全英オープン」は4月7日、第2次世界大戦以来75年ぶりの「中止」が発表された。
そんな中、プロゴルファーたちは日々をどうやって過ごしているのかと言えば、もちろん人それぞれではあるのだが、この選手の取り組みには驚かされた。
ジェアード・ウルフェは31歳の米国人。ケンタッキー州で生まれ育ち、現在はフロリダ州で妻と生まれたばかりの娘と3人で暮らしている。
ウルフェは大学卒業後、2010年にプロ転向。米PGAツアー傘下の「マッケンジーツアー・カナダ」や「PGAツアー・ラテンアメリカ」で腕を磨き、2020年は下部ツアーの「コーン・フェリーツアー」参戦を開始した。
そして、1月に初優勝を挙げ、同ツアーの賞金ランク6位に浮上。シーズン終了時にトップ25に食い込めば、来季の米ツアー出場権を手に入れることができるというところまでようやく辿り着いた矢先、感染拡大の影響でツアーがストップしてしまった。
それでもウルフェはツアーが再開される日のために、ホームコースであるフロリダ州の「TPCソーグラス」で毎日、練習に精を出していた。だが、感染拡大は悪化していき、ツアー再開の見込みは遠のくばかりだ。
そんな中、「肩を落としてばかりはいられない。心身ともにアクティブな姿勢であり続けなければいけない」と自身に言い聞かせ、ゴルフの練習以外にも「何かしよう」「パートタイムで働こう」と決意した。
彼が向かった先は、医療機器や医療サービスを扱う会社。その会社が今扱っているのは、新型コロナ感染の有無を確かめるPCR検査だ。
ウルフェは数日間のトレーニングを経て、間もなく、PCR検査を行うチームの一員としてフロリダ州内を回るそうだ。
「1週間に2、3日はPCR検査を行う仕事に就き、残りの日々はゴルフの練習をするつもり。練習時間のうちの2、3日を犠牲にすることは、この世の終わりでも何でもない。いくらかのお金を稼いで家計の足しにもできるし、人々の役に立てる重要な仕事です。ツアーの再開が決まったら、この仕事は辞めて、ゴルフの練習に専念しようと思っています」
ウルフェは、今シーズンがすべて中止になることも覚悟した上で、「これもありえる」「こうなるかもしれない」と、いろんなケースを想定しているという。
「それでも気持ちと姿勢だけは前向きでいたい。いつか、ゴルフが再開されるとき、自分の今の(ツアーにおける)好位置を維持できるよう、頑張りたい」
■「何がベストかを考えて」
感染拡大の影響でプロゴルフの世界が休止状態に陥ってからというもの、米ツアーのトッププレーヤーの中には、外出自粛中に自身が行っている練習などの一部をSNSで紹介している選手も見受けられる。
かつて世界ナンバー1に輝いた米ツアー5勝の英国人選手ルーク・ドナルド(42)は、フィットネス・トレーニングをシリーズ化した動画を自宅に完備しているジムで自ら撮影し、SNSにアップしていた。
日ごろから高額を稼いできたトッププレーヤーたちには、それなりに蓄えもあるはずだが、下部ツアーやミニツアーの選手たちの大半は、試合がなくなって賞金が稼げなくなれば、あっという間に生活が立ち行かなくなる。
そんな中、前述のウルフェは、社会貢献と実益の両方を兼ねて、ゴルフとは無関係な医療分野に飛び込んだ珍しい例と言えるが、プロゴルファーなら「ゴルフ」でお金を稼げないものかと考えるのがフツウである。
ゴルフのレッスンを行うというのは、これまたストレートでフツウのアイディア。しかし、ちょっとひと捻りすれば、それはグレート・アイディア、グレート・ビジネスに早変わりする。
下部ツアーの「コーン・フェリーツアー」選手のコンラッド・シンドラーは31歳の米国人。3月17日にその後の試合の中止や延期の知らせを受けた直後に、「20ドルでレッスンします」とツイッターで呼びかけた。
その方法は、一方的に教えるのではなく、完全なる双方向で、しかもマンツーマンと言っていい。
まずレッスン希望者から自分のスイング動画を送ってもらい、シンドラーはその動画を見て、修正すべき点や修正の仕方をわかりやすく解説する「その人のための5分間レッスン」を自撮りで録画し、送り返すという形式だ。
すべてはシンドラーの瞬間的な思いつきだったそうだ。「5分間レッスン」の撮影場所は自宅のリビングルーム。背景には生活小物が多々散らかっている。そして、シンドラーの出で立ちは、ゴルフウェアではなく、よれよれの短パン、Tシャツという普段着姿。
だが、素早い対応とわかりやすい解説が「20ドル以上の価値がある」と好評を博し、あっという間に1日500ドル(5万円超)を稼ぐ売れっ子レッスンプロに早変わり。
「心配したり、不平不満を言ったりするより、今、自分に何ができるか、何がベストかを考えて行動すべきだ。僕はレッスンすることで生活ができている今に感謝し、レッスン生活をそれなりに楽しんでいます」
■「最大10万ドル」の仮払金
米ツアー選手たちの多くが、それぞれの立場で「自分にできること」を行っている。そんな気丈で健気な姿を目にして、米ツアーも彼らに救いの手を差し延べずにはいられないのだと思う。
感染拡大が止まらない現状下、5月半ばまでの大会をすでに中止決定している米ツアーは、「もしもツアーを再開できたなら」と前置きした上で、少数精鋭の招待形式の大会の出場者枠を120名から144名に拡大し、1週間に2試合を開催するなどして、1人でも多くの選手がプレーできるよう、出場機会を最大化することを発表した。
また、この4月から施行される予定だったペース・オブ・プレー改善策、いわゆるスロープレー取り締まり規制の新施策の開始を来年まで保留するという。
さらに、経済的に逼迫状態にある米ツアー選手への救済策として、最大10万ドル(約1070万円)までの仮払いを行う準備も進めている。仮払金は、シーズンエンドに支払われるフェデックスカップ・ボーナスから差し引いて相殺する予定だそうで、米ツアー担当者は「とてもクリエイティブな施策だと思う」と胸を張っている。
その通り、今は非常事態であり、未曽有の緊急事態だからこそ、柔軟でクリエイティブな発想、迅速な対応が求められる。
プロゴルファーが医療現場に出向いてマンパワーの一助を担うことで生計も立てるという発想。ツアープロがSNSを駆使してレッスンプロに早変わりするというクイック対応。そんな選手たちの気概に呼応して、自慢としてきた少数精鋭のエリートフィールドの門戸を広げ、懸案事項として必死に取り組んできたスロープレー規制を緩め、選手を守るためなら1000万円をポンと貸すことを決めた米ツアーの度量。
「できることをやる」「みんなで戦う」の良き手本を米ゴルフ界が示してくれた気がしている。
舩越園子
最終更新:4/8(水) 9:45
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