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「死ねとおっしゃるんですか?」250万円の家賃滞納で夫婦は…

4/9(木) 10:00配信

幻冬舎ゴールドオンライン

高齢者の「家賃滞納」問題。法律に基づき退去させることも可能だが、財産の少ない高齢者への強制執行に、苦しむオーナーも少なくない。そこで本連載では、章(あや)司法書士事務所代表・太田垣章子氏の書籍『老後に住める家がない!』(ポプラ社)より、高齢者の賃貸トラブルの実例を挙げ、その実態に迫っていく。

250万円の家賃滞納を「手紙」で言いくるめる老夫婦

◆訴訟手続き中に高齢者が死亡

古い戸建ての賃貸で、トータル3年分くらいの滞納となっていました。家主側は督促していなかった訳ではありません。毎月きちんと書面を出しても、その度に賃借人の加山聡さん(76歳)の妻幸代さん(75歳)からの手紙が届くのです。

その内容は、かれこれ30年ほど住んでいるということ(だからそれなりに情もあるでしょう?)、一生懸命に資金繰りをしているということ(それなりに誠意があるでしょう?)、資金の目処は立っている(だから後少しでしょう?)といったものでした。


毎回、自筆で数枚にも及ぶ手紙は、家主を憂鬱にさせるものでした。自己を正当化する主張が延々と続くと、「話し合っても噛み合わない」という印象を抱くことになり、そして「これじゃ、言い負かされてしまう」という落胆に繋がっていきました。向き合うのは、かなりのストレスだぞ……そう思うと、そこからの一歩が踏み出せなかったのです。

その思いのために、家賃7万円だというのに滞納額は250万円を超えてしまっていました。自分の手に負えないとしても、このままでは滞納状況が改善されるとは思えません。これは専門家に任せるしかない、そう思い事務所に来られたのです。

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「私たちに死ねとおっしゃるんですか?」

加山さんはご夫婦と次男(36歳)の3人でこの家に住んでいます。長男(42歳)は別の場所で、一人暮らしをしていました。

働き盛りの息子との同居なら、夫婦の年金とともに月7万円の家賃が厳しいとは思えません。おかしいなと思っていたら、この次男は精神疾患で働いてはおらず、高齢の親が子どもを未だに養うまさに「8050問題」でした。

しかも長男も精神疾患で生活保護を受給しながら一人で生活していました。これでは問題の出口の光が見えそうにありません。賃借人の年齢や家族構成等も考え、まずは明け渡しの判決をもらってから役所と掛け合い、生活保護も含め次の転居先を探していこうと方向性を決めました。

手続きが始まった直後、幸代さんからすぐに連絡がありました。

「一生懸命に生きているんです。明け渡せということは、私たちに死ねとおっしゃるんですか?」

息継ぎの間も感じさせないほどの勢いで、幸代さんは電話口で声を荒らげながら主張を続けます。

もちろん「死ね」なんて一言も言っていません。ただ出口の見えない高齢者の人たちには、そう聞こえてしまうのかもしれません。だからと言って、家主が無料で部屋を提供する義務もないのです。

「これを機会に、もっと安い物件に移転して、生活を立て直しましょう」

そう伝えても、幸代さんの耳には届きません。

「私たちは、絶対に出て行きませんから」

そう一方的に言い捨てて、電話は大きな音を立てて切れました。幸代さん宅に裁判所から訴状が届くと、また電話がありました。まだ勢いは止まっていません。

「主人は病気なんですよ。出て行けるはずはないじゃないですか」

聡さんに万が一のことがあれば、手取りの年金は激減します。年齢的にも今回の手続きを機に、将来に目を向ける必要があるのです。

「一緒に役所に行きましょう。そして転居先を見つけましょう」

懸命に説得をしても、幸代さんは怒鳴り散らすだけです。これでは家主さんの気持ちが萎えてしまうことも分かります。

幸代さんは、定期的に電話をしてきては、一方的に「退去できない」と言い、電話を切ってしまうということを繰り返しました。そうして裁判の日が10日後に迫った頃、初めて弱気な幸代さんからの連絡を受けたのです。

「主人が亡くなりました」

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最終更新:5/13(水) 20:12
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