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国民全員への10万円給付はベーシックインカムの実験、二階建てにすれば景気もコントロールできる

5/21(木) 13:24配信

mainichibooks.com

 新型コロナウイルス感染拡大の危機で注目を集めている社会保障制度がある。国民全員に生活に必要な最低限のお金を給付する制度で、一般に「ベーシックインカム」(基本所得、BI)と呼ばれている。例えば、月に7万円といったお金が、政府から国民に支給されるものだ。

 主要国でまだ本格的に導入した国はないが、今年3月にジョンソン英首相がBIを検討すると述べ、4月にスペインのカルビニョ経済相がBIを導入すると発表した。米国では一部の富裕層を除く全ての国民に対し最大1200ドル(約13万円)、子どもは500ドル(約5万5000円)を給付することが決定された。日本でも居住者全員に10万円を給付する「特別定額給付金」が策定されている。

 これらは、1回限りの予定で「一時的なBI」と位置づけられる。日本でもリーマン・ショック後、景気刺激策として定額給付金が実施されたが、一時的であれ世界各地でこれほどの規模のBIが実施された例はない。危機が長引けば「恒常的BI」として根付く可能性もあり、社会保障制度が様変わりするかもしれない。

 近代的な社会保障制度の源流は、1601年に英国で制定された「エリザベス救貧法」にさかのぼるが、本格的な制度導入は19世紀のドイツ帝国で始まった。「鉄血宰相」ビスマルクは、社会主義者鎮圧法を制定して労働運動を弾圧する一方で、医療保険、労災保険、年金保険を整備することで「アメとムチ」による統治を行った。

 社会保険と公的扶助を組み合わせた現代的な社会保障制度は、英国の経済学者ベバリッジが発表した「ベバリッジ報告書」(1942年)によって整備された。社会保険によって老齢や失業といった人生におけるさまざまなリスクをカバーし、それでも応じ切れない場合に生活保護のような公的扶助で救済するというビジョンが示されたのである。

 BIはこうした社会保障制度の歴史の流れにはない。英思想家トマス・スペンスが18世紀末に著書『幼児の権利』で示した提案が、全員に定期的に現金を給付するというBIのアイデアとしては最古のものだ。しかし、後世に引き継がれることはなく、BIのアイデアは、歴史の中でたびたび浮かんでは消えていった。BIの研究が継続されるようになったのは、86年にBIに関する国際組織「ベーシックインカム欧州ネットワーク」(BIEN)が設立されてからだ。

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最終更新:5/21(木) 13:24
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