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「見えない地滑り」が海底で頻発、原油流出事故の原因にも

5/21(木) 18:44配信

ナショナル ジオグラフィック日本版

きっかけはなんと1000キロ以上離れた地震だった、メキシコ湾

 2010年、米国史上最悪レベルとなるメキシコ湾原油流出事故を引き起こしたのは、人的なミスだった。しかし、悪名高い原油流出事故のなかには、自然災害がきっかけになったものもある。たとえば16年前から続くある原油流出は、メキシコ湾の石油掘削プラットフォームが海底地滑りによって破壊されたことに起因している。

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 メキシコ湾では、こうした海底地滑りが、従来考えられていたよりも高い頻度で起きていることが、地震データを用いた新たな研究によって明らかになった。5月18日付けの学術誌「Geophysical Research Letters」に論文が発表された。

 メキシコ湾には石油掘削プラットフォームが2000近くあり、石油ガスパイプラインが7万キロにわたって敷設されている。今回の研究成果は、これらの施設に対する新たな懸念を浮かび上がらせる。

 論文によると、メキシコ湾では2008~2015年に、これまで知られていなかった海底地滑りが85回起きていたという。そのうち10回は検出可能なきっかけがなかった。研究チームが驚いたのは、残りの75回が遠方の地震がきっかけになって起きたらしいことだ。そのほとんどは、何百キロも離れた北米の西海岸沿いで発生した小中規模の地震だった。

「メキシコ湾であれほど多くの海底地滑りが起きているとは予想していませんでした」と、研究を率いた米フロリダ州立大学の地震学者ウェンユアン・ファン氏は話す。「海底地滑りが地震波の通過による影響をこれほど受けやすいことも予想外でした」

メキシコ湾の揺れの謎

 メキシコ湾で昔から海底地滑りがあったことは、科学者の間では知られていた。米国で記録されている最大の海底地滑りはテキサス州沖で起きたものだ。ミシシッピ川の河口付近には、大きな海底地滑りの傷痕が複数残されている。

 メキシコ湾の海底が地滑りを起こしやすい理由もわかっている。毎年、川からメキシコ湾に大量に流れ込む堆積物によって、急勾配の不安定な地形がつくられるからだ。

 しかし、記録されている海底地滑りは、大半が何千年も前に起きたもので、現代の海底地滑りの頻度やそのきっかけを突き止めることはできない。

 ファン氏らはこうした知識の空白を埋めるため、「USArray」のデータを活用することにした。USArrayは、米国本土に張り巡らされた400の地震計から成るネットワーク。張り巡らされた地震計は、地中を伝播する高速のP波とS波を計測するのはもちろんだが、地球表面を伝わる波もとらえている。

 2017年、太平洋岸の地震を調べるためにファン氏がUSArrayのデータを使い始めると、すぐに不思議なことに気づいた。地震がめったに起きないメキシコ湾に、信号がいくつも記録されているのだ。ファン氏らは波の特性を分析し、再現するモデルを構築、それらの波の多くが海底地滑りの痕跡であると確信した。

 ファン氏らは2008~2015年に継続的に収集されたデータを調査し、メキシコ湾で発生した85回の明白な海底地滑りと、それに関連する表面波を特定した。ファン氏らが最も驚いたのは、特定された海底地滑りの90%近くが、1000キロ以上離れた場所で地震が起きた後、数分以内に発生していたことだ。

 これらの地震のほとんどは、太平洋岸北西部とメキシコの間を走る太平洋プレートと北米プレートの境界で起きたものだった。多くがマグニチュード5程度で、カリフォルニア州では「ニュースにすらならない」ほど小さい地震だと、ファン氏は説明する。

 調査によると、さらに遠くで起きた大きな地震が海底地滑りを引き起こすことはなかった。ファン氏は、メキシコ湾の海底地滑りを引き起こす最大の要因は地震の強さではないと考えている。ただし、遠く離れた地震がどのように地滑りを引き起こすのかを解明するにはさらなる研究が必要だと、ファン氏は強調する。

「さらに、海で実験を行い、海底地滑りを引き起こす物理的機構をすべて特定する必要があります」

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