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佐藤寿人、“10年に1本”のループボレー弾 瞬時の閃きを生んだ1993年カズの一撃の記憶

5/23(土) 18:50配信

Football ZONE web

【J番記者が選ぶスーパーゴール|広島編】2013年J1第27節鳥栖戦(前半23分)…佐藤寿人の芸術的なループボレー弾

 佐藤寿人という名人は、記憶力が抜群にいい。

「2012年のFC東京戦のゴールは」と聞けば、「雨の中でミカ(ミキッチ)のクロスを決めたゴールですね」と即答し、詳細まで説明してくれる。しかもその記憶力は、自分自身のゴールについてだけではない。

【動画】1993年“キング・カズ”の一撃をイメージ! 佐藤寿人が2013年の鳥栖戦で決めた芸術的なループボレー弾

 たとえば2013年9月28日、アウェーの第27節鳥栖戦(2-0)で驚愕と言っていいループボレーを決めた時のことだ。

 前半23分、右サイドに流れたMF髙萩洋次郎から40メートルを超えるロング・サイドチェンジが寿人の走る場所にピタリと落ちる。その時、誰もが考えた。ここでキープか、それともボールを前に運ぶか。

 しかし、ストライカーの判断はまったく違った。

 2バウンド目の落ち際を走りながらハードヒット。ボールはGK林彰洋の手が届かない空間を通りながらストーンと落下し、逆サイドのネットに放物線を描いて吸い込まれた。20世紀後半、プロ野球で3年連続MVPという快挙を演じた伝説のアンダーハンド、山田久志の魔球・シンカーの如し。鳥栖のホームであるベストアメニティスタジアム(現・駅前不動産スタジアム)は、重力を自在に操ったかのようなシュートに戦慄した。

「イメージどおりのパスだったし、寿人さんとのタイミングも合っていた。でも、あまりにシュートがすご過ぎて、僕のパスはなかったことに」と髙萩は笑った。

 ゴールの起点となるインターセプトを決めたDF千葉和彦は、「10年に1本、あるかないかのゴール。ただ、今年は寿人さん、川崎フロンターレ戦でもすごいループを決めていますから」とエースへの絶対的信頼を口にした。鳥栖の尹晶煥監督も「ああいうシュートを撃たれると、なかなか防ぎようがない。佐藤寿人の決定力が秀でていた」と脱帽せざるを得なかった。

93年W杯アジア1次予選タイ戦で三浦知良が決めたボレーシュート弾を練習した成果

 だが、記者陣が本当の意味で、紫のエースの凄みに圧倒されたのは試合後、彼のコメントを取材した時のことだ。

「アメリカ・ワールドカップのアジア予選でカズ(FW三浦知良)さんのゴールを、イメージしたんです。たしか、タイ戦だったかな」

 え、いつのゴールだ? 20年前のゴールをイメージして打ったのか?

「その時のゴールを小学生の時に見て、覚えていたんです。とにかくカズさんのあの試合でのゴールがかっこよくて。あれからずっと、そのシュートシーンばかりを練習していました。(GKの原)裕太郎に聞いてくれれば、たぶん『よく狙っています。練習どおりできましたね』と言われると思う(笑)。それに、ああいうシュートは、前も決めたことがありましたね。自分のイメージを可能にする技術は、練習の時から磨いていないとできない。後ろからポーンとボールを投げてもらって、そこから逆サイドを狙う。何度も何度もシュートを打って、自分の中での感覚を体に覚えさせるんです」

 取材後、そのシーンを必死で検索した。

 あった。

 1993年4月8日、アメリカ・ワールドカップアジア1次予選日本ラウンドの初戦だ。タイは1次予選最大の敵と言われた強敵。ホームではどうしても勝利が必要だったこの試合で、“キング”カズは魅せた。MF森保一からFW福田正博へとつなぎ、そこからのループパス。距離は髙萩ほどではなかったが、プレスのかかった中央から裏のスペースを狙った見事なパスだ。そこに反応したカズは、大きなバウンドの落ち際をしっかりと叩き、ゴール右隅に叩き込んだ。ボールの軌道や距離などは違うが、確かにイメージはピタリと合う。

 寿人は小学校の時に見たこのシュートを、ずっとずっとトレーニングしていた。20年前にテレビ画面で見たゴールを詳細まで記憶し、具体的に落とし込んでボールを蹴り続け、実際に決めきった。なんという記憶力だろう。なんというイメージ力だろう。なんという練習力だろう。

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最終更新:5/24(日) 10:58
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