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NBA ヒートV2の理由 組織力でファイナルを制す

2013/6/21(金) 15:41配信

THE PAGE

 スパースのティム・ダンカンという選手が、試合中に感情を顔に表わすことはまず、ない。そもそも、見たことがない。
 しかしこの日――2点を追う第4Qの残り1分で、フックショットとティップショットを続けてミス。直後、ディフェンスに戻ると、手をフロアに叩き付け、さらにタイムアウトでベンチに戻ると、両手で顔を覆った。
「レイアップを決めれば、同点になると分かっていたからね」とダンカン。試合後、そう冷静に振り返ったが、「自分に腹が立った」と認めた。
 あのダンカンが感情を露にするほど激しい展開となったゲーム7。
 ヒートは、1点リードで第4Qを迎えると、マラソンに例えるなら、30キロを過ぎて、何度も何度もスパートをかけている。
 残り5分39秒では、83対77と点差を6点に広げた。残り2分56秒の時点では、5点差とした。

 しかし、スパーズは離れない。その度に3ポイントシュートなどを決めて、食らいついた。
 ダンカンがシュートを決められなかったのは、そんな展開の中。彼が決めていれば、同点。スパーズに流れが傾きかけていたことを考えれば、その後、試合の行方はどう転んだろうか。
 おそらく、ダンカンこそが、それを一番分かっていた。コートを叩きながら歪めた顔が、失ったものの大きさを物語っていた。

 西地区2位、東地区1位の対決となった今年のNBAファイナルは、第1戦こそ接戦となったが、第2戦から5戦まで大味な試合が続いた。
  第2戦は19点差でヒート、第3戦は36点差でスパーズ、第4戦は16点差でヒート、第5戦は10点差でスパーズが勝っていた。
 対照的なチーム。自分たちの展開に持ち込めたときは強いが、苦手な展開になると、なすすべを持たなかった。
 スパーズのバスケットは、教科書通りの攻め、守りを基本とする。
 ダンカン、トニー・パーカー、マヌー・ジノビリーの3人を中心に、ピック&ロール、スクリーンを多用し、さらにはボールを回す。ディフェンスでは、ダンカンを柱に、スクリーンをかけられても巧みにスウィッチするなど、相手に隙を与えない。ある意味、誰もが理想とするバスケットをしている。
 ダンカン、ジノビリーが年齢的に衰えを見せ始め、ここ数年はプレイオフで勝ち進めなくなったが、今回のファイナルでは、ダニー・グリーンが、ファイナル記録となる27本の3ポイントシュートを決めるなどして、スパーズに勢いを与えた。

 一方、ヒートはと言えば、表面的に見た場合、選手の個々の能力に頼る試合をする。オフェンスでは、スパーズほどボールが回らない。第7戦では、9人が出場したが、5人しか得点していない。スパーズが9人の出場選手のうち、8人が得点を挙げたのとはやはり対照的だ。
 野球でいえば、4番打者を並べた打線といってもいい。ジェイムス、ドウェイン・ウェイド、クリス・ボッシュらは大金をはたいて集められた。
 ただ、ジェイムスらは、4番を打つ力を持ちながら、1番や2番の役割を起用にこなせる。いってみればこのチームの強みがそこにある。
 この日、控えのシェーン・バティエが6本のスリーポイントシュートを決めて18点をマーク。ときにジェイムスらは、黒子に徹する。
 もちろん、最初から彼らがそんなチームだったわけではない。
 2年前、ファイナルにまで駒を進めたが、スパーズと同じように組織力で勝負するマーベリックスに完敗した。その頃、スター選手が、「俺が、俺が」とホームランを狙った。しかし昨季のファイナルでは、そこを修正。若いサンダーを寄せ付けなかった。
 今回、スパーズが優位だったシリーズの流れを変えたのは、第6戦の残り5秒余りで決まったレイ・アレンの同点3ポイントシュートだが、彼はこうチームを分析している。
 「このチームには、エゴがない。選手一人一人に役割があり、それを理解している。それぞれが、その役割を受け入れている」
 ジェイムス、ウェイドらは、チームを背負う役割を当然のように意識している。アレンら控え選手らも、すべきことを知る。
 自身、3度目の優勝となったウェイドも言った。
 「俺たちは、互いに信じている。我々は、チームとして戦っている。ジェイムスや自分、クリスが大活躍するときもあるが、みんなが、少しずつ貢献しながら戦っているんだ」

 ヒートは、ジェイムス、ボッシュが移籍してから3年で2度目の優勝だ。4番打者であっても進塁打が打てる。そんなバスケットを続ける限り、彼らはさらにタイトルを重ねるのではないか。
  MVPにも輝いたジェイムスはしかし、そんな将来のゴールを問う質問には直接答えず、満面の笑みを浮かべていった。
「あぁ、勝ってよかった。もうすぐ、結婚式だからね。勝って迎えるのと、負けて迎えるのとでは大違いだから」
 お金を使ってスター選手を集めれば勝てる――。ある人はそう見るだろう。しかし、そうではないことを、ヒートは今回、2度目の優勝で証明した。
(文責・丹羽政善/米国在住スポーツライター)

最終更新:2015/12/2(水) 2:59
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