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戦場カメラマン・久保田弘信が見たシリアの現状

2013/7/12(金) 11:34配信

THE PAGE

 2年にもおよぶシリア内戦。アサド政権の支配に反対する反政府軍(自由シリア軍)の戦いは、ダマスカスやアレッポなどの都市部だけでなく、地方の小さな村までも戦場に巻き込んだ。今年2月と6月、二度にわたってシリア入りした戦場カメラマン・久保田弘信さんが横浜市立大学で講演し、現地の惨状を学生らに訴えた。彼が目の当たりにしたシリアは、どういうものだったのか。

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■内戦に巻き込まれた500人の村

 久保田さんがシリア入りするきっかけは、ある看護師の呼びかけだった。「医療物資をジャーナリストの方に運んでほしい」という依頼をうけ、「自分が役に立てるのなら」という気持ちで日本を飛び立った。拠点としていたのは、トルコ国境の町ハタイに近い山間部の小さな村にある診療所だった。

 そもそも、この村は人口500人程度の小さな村。攻撃が地方にも及ぶようになったため、都市部や周辺の村から逃れた人たちが集まってきていた。ここは自由シリア軍の拠点にもなっているため、ときに政府軍のターゲットにもなっているという。

■幼い子供も攻撃の犠牲に

 到着してから、ひっきりなしに患者が運ばれてきた。

 「たくさんの人たちが、ここに運ばれてくるが、それはケガをした人たちなので、当然ながら亡くなった方は来ない。亡くなられた方を含めると多くの民間人が犠牲になっている。周辺の村では幼い子供もなくなっている。それだけ、シリアがひどい状態だということ」。

 医療を取り巻く環境の悪さは想像を絶している。医師は周辺諸国に逃れたシリア人の医師が二週間交代で対応していた。電気はあるが、ガスはない。ここで対応する人たちの食事は、薪ストーブで作られる。都市部の施設とは異なり、設備などはまるで整っていない。

 そもそも、昨年7月まで学校だったところを、診療所として使っているだけの場所。設備はもちろん、医療物資も医師も慢性的に不足していた。

■携帯電話の光を頼りに執刀

 民間人をターゲットとした攻撃が毎日のように続き、患者が次々に搬送されてきた。

 医師はすべての患者の対応に追われるため、1日50人の手術を行うことも少なくない。インフラが整っていないため、手術中の停電も珍しいことではないという。数少ない光をかき集め、メスを握り続ける医師が頼りにする光は、ときに携帯電話の乏しい光であることもしばしばだ。

 薬も物資も足りなければ、ケガを負った箇所を洗う水もない。さらには、輸血する血も不足している。ときに医師は、手術を行う前に自分の腕に針を刺し、輸血用の血を確保する。そして、執刀する。

■薬よりも武器を支援してほしい

 医師たちが口にする言葉は、やはり支援を求める声が多い。足に重傷を負った患者を救った“医療用の金具”は、実は、周辺で探してきた金属を消毒して加工しただけのものだったりもする。

 「とにかく薬や医療物資を支援してほしい」と訴える医師もいれば、過激なものは「薬よりも武器を送ってほしい。地対空ミサイルを支援してほしい」と真剣に話す医師もいる。政府軍の攻撃はヘリ2機で行われることが多いため、地対空ミサイルがあることで、抑止力になるという。実際に、2月に訪れたときは診療所内に武器を持ち込む事はできなかったが、再訪問した6月には自由シリア軍や外国からの義勇兵によって武器が持ち込まれていた。


 久保田さんは言葉を強める。「日本における国際ニュースの中で、シリアの存在はとても扱いが少ない。エジプトやトルコのデモのようなわかりやすさがないためだと思うが、テレビなどでは扱われることが少ない。もし、報道されたとしても、ダマスカスやアレッポなどの都市部の攻撃だけ。僕が見たものもごく一部だが、そのごく一部の状況だけでも、少しでも多くの人の知ってほしい。小さな村の民間人さえもが、攻撃のターゲットにされている事実、医師や患者たちが支援を望む声をもっと届けたい」。

■日本の若い世代に期待

 横浜市立大学での講演に集まった学生は100人を超えた。講演後の質疑では、絶えず意見が飛び交った。そのほとんどが女子学生たちだった。

 「自分たち学生に何ができるか?」と問いに対し、久保田さんは「関心を持ってほしい。関心を持つことで、自分で調べたり、仲間と話したりするようになる。そのうち、シリアに行きたいと思うかもしれないし。シリアじゃなくてもトルコやヨルダンの近隣に行くような行動を起こせるようになる」と、若い世代の起こす行動に期待を寄せた。


■久保田弘信
くぼた・ひろのぶ 岐阜県出身。大学で物理学を学ぶが、スタジオでのアルバイトをきっかけにカメラマンの道へ。1997年からアフガニスタン取材を始め、アフガニスタン戦争では、多くのジャーナリストが首都カブールに向かう中、タリバンの本拠地カンダハルを取材。2003年3月のイラク戦争では攻撃されるバグダッドから戦火の様子を日本のテレビ局にレポートした。2010年、戦場カメラマン渡部陽一氏と共に「笑っていいとも」に出演。近年はシリア内戦を取材。日本国内では写真展、講演活動中。

最終更新:2016/2/7(日) 3:43
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