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坂本龍一氏の放射線治療拒否はデマ? どうしてそうなった?

2014/7/17(木) 15:00配信

THE PAGE

 著名音楽家の坂本龍一氏が、がんになったことを公表しましたが、治療方針に関する報道をめぐってちょっとした騒動がありました。

 坂本氏はいわずと知れた反原発論者です。スポーツニッポンは、坂本氏が反原発運動の先頭に立ってきた立場から、放射線治療を拒否していると報道し、ネットではこれをめぐって賛否両論が沸き起こりました。結局、坂本氏本人がこれをツイッターでやんわりと否定したことから、その情報はおそらくウソだということが判明したのですが、放射能の問題は、日本人のメンタリティに大きな影響を与えていることがあらためて浮き彫りになりました。

 医療の現場では、放射線や放射性物質を使った検査や治療が多数行われています。健康診断でお馴染みのレントゲンやCTスキャンは、実はかなり大量の放射線を浴びることで知られています。また、がんの早期発見に用いられるPETと呼ばれる検査は、放射性物質を体内に注入するので、一定の範囲内ではありますが、内部被曝してしまいます。

 がんが進行した段階では、強い放射線を照射して、がん細胞を死滅させるという治療も行われます。これは人間の体にとってもかなり負担となる強い放射線量です。こうした検査や治療によって、がんが早期発見できたり、一定の治療ができるという効果もありますから、結局のところは、リスクとベネフィットのバランスということになります。

 これに対して原発の事故は、何のベネフィットもないまま一方的に、周辺住民が被害を受けたものであり、医療用の放射線被曝とは同列に論じることはできません。人間は普通に生活していれば、自然から一定の放射線を被曝しますし、航空機の搭乗によっても被爆します。しかし、事故によって被爆してしまった人たちは、自然放射線や医療放射線にプラスして、原発から漏れ出た放射性物質による放射線を浴びてしまいますから、この点については、十分に考慮する必要があるでしょう。

 一方で、その被爆がどの程度の健康被害をもたらすのかについては、他の低線量被曝の実例なども参考にしながら、科学的に議論する必要があります。最終的な結論が得られるまでには、時間がかかりますから、現時点において過激な論争をしてもあまり意味はありません。

 今回の記事は、結局(意図的な?)誤報だったわけですが、こうした記事は、それを生み出す土壌があって初めて成立するものです。「ゴリゴリの反原発論者である坂本氏なら、治療や検査に必要な放射線被曝についても拒否するのではないか?」という一種の共同幻想があったわけです。わたしたちは、自らが作り出した、こうした共同幻想に惑わされないよう注意を払う必要があるでしょう。

(The Capital Tribune Japan)

最終更新:2015/7/26(日) 4:19
THE PAGE