ここから本文です

「ブルーグラス」の伝道師 ── ミュージシャン 稲葉和裕さん

2014/12/5(金) 20:51配信

THE PAGE

 マーケティング戦略に乗って、市場を席巻するヒット曲ばかりが、音楽ではない。多様な歌い方やサウンドのスタイルがあってこそ、喜怒哀楽の表現枠が広がる。関西を拠点に、ブルーグラスの普及に打ち込むミュージシャンの活動を追った。

90年代から156回目の定期公演

 大阪市北区曽根崎新地のジャズクラブ「ミスターケリーズ」。ドアを開けると、心地よいアコースティック・サウンドが響いてくる。アメリカ南部の伝承音楽、ブルーグラス・ミュージックを手掛ける「ブルーグラス・ランブル」の定期公演だ。シニア世代を中心とした観客が、酒と料理を楽しみながら耳を傾けている。

 バンドは5人編成。マンドリン、バンジョー、フィドル(バイオリン)、ベースの各奏者に、ギターとヴォーカル担当の稲葉和裕さん(54)だ。

 定期公演は1998年のグループ結成からスタート。2カ月にいちどのペースで開催され、11月公演で156回目を迎えた。ブルークラスのロングラン定期公演は全国的にも珍しい。稲葉さんは兵庫県西宮市在住。関西を拠点に、ソロ活動とバンド活動を両輪に、カントリーやブルーグラスのミュージシャンとして活躍。とりわけブルーグラスの普及に打ち込んできた。

アンサンブルで高い音楽性を追求

 19世紀後半から20世紀前半にかけて、アメリカ南部で多くの音楽潮流が生まれた。黒人主体のジャズやブルース。白人中心のカントリーに、ブルーグラス。アメリカは広大で、同じ南部でも地域が違うと、風土や気質が異なるため、音楽の表情も変化に富む。

 日本人には、カントリーとブルーグラスは、似通った音楽に聞こえるが、稲葉さんは双方を比較しながら、それぞれの魅力を解説する。

 「カントリーは個性の強いヴォーカルが主役。ほかのメンバーは、バックバンドの役割に徹して、ヴォーカルを盛り立てていく。一方、ブルークラスの持ち味はバンドのチームワーク。全員のアンサンブルで、クオリティの高いサウンドを追求していきます」

 唱法に特色が際立つ。稲葉さんが高音で歌いあげると、孤高のリリシズムが香り立つ。「ブルーグラスの父」ビル・モンローが編み出した「ハイロンサム」という唱法だ。
「高音によって、静かに耐える寂しさを表現します。カントリーはむしろ低い声でゆったり歌うことで、切なさが広がっていく」

 聞き比べると、おもしろそうだ。唱法が違っても、長調の明るい曲調に、悲しさを託す点は同じだ。短調では暗くなりすぎる。望郷の念や失恋の痛手を、せめて明るく歌いたい。南部で暮らす白人たちのメンタリティが、歌の表情に深みを刻み込んだ。

 ビル・モンローの代表作「Blue Moon of Kentucky(ケンタッキーの青い月)」は、エルヴィス・プレスリーなど、他ジャンルのアーチストにもカバーされ、世界的なヒット曲となった。カントリー界からは近年、新星テイラー・スウィフトが出現。ポピュラー音楽へ進出して、スターダムにのしあがった。

1/2ページ

最終更新:2014/12/5(金) 20:51
THE PAGE