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井上の衝撃2回KO劇の真相

2014/12/30(火) 23:14配信

THE PAGE

 ボクシングのWBO世界スーパーフライ級タイトルマッチが30日、東京体育館で行われ、挑戦者の井上尚弥(21歳、大橋)は、同王座を11度防衛していた同級王者、オマール・ナルバエス(39歳、アルゼンチン)を2回3分1秒、KOで下して、世界最速で2階級制覇に成功した。2回で4度ダウンを奪う衝撃の世代交代劇の裏には、用意周到な陣営の戦略と過酷な減量からの解放、そして天才的なセンスがあった。

 試合直後のリング上でナルバエス陣営がクレームをつけてきた。
「王者があんな倒れ方をするはずがない。グローブに鉛か何かを入れているんだろう。今すぐに確認させろ!」
 2回で4度のダウン。フライ級、Sフライ級王座を計27度防衛した伝説のチャンプの無残な姿をアルゼンチンから来たトレーナー陣が信じられなかったのも無理はない。
 大橋秀行会長がリング上で、井上尚弥のグローブを外して相手に確認させると当然、何の細工もない。
「どうなんだ?」と大橋会長が聞くと、ナルバエススのトレーナーは、苦笑いを浮かべて「グレートなニューチャンプだ!」と一言返したという。

 衝撃のKO劇だった。
 開始25秒、右のストレートをガードの上からぶちこんだ。不沈の王者は、よろめくように倒れた。ガードの内側からこじあけるような右を2発打ったが、実は、このパンチ、用意周到な戦略的なパンチだった。
「最初に強いパンチを打って、そこから相手に警戒させるのが作戦でした」
 警戒させるための一撃が警戒どころがダウンを奪う強烈なダメージブローに変わったのである。

 これには、二つの理由があった。ひとつは、地獄の減量から解放され、階級を一気に2つ上げたことによる、パワーアップ。井上自身も「パンチへの体重の乗り方がライトフライのときは全然違っていた」という。 そして父であり専属トレーナーである真吾さんが、ビデオ解析を繰り返しながら修正させたパンチの角度。
「これまでは少しガードの外から打ち込む感じだったが、その角度を練習でインサイドから打てるように変えたんです」
 改良されパワーアップした右だったわけだ。

 ナルバエスは立ち上がったが、コーナーにつめて今後は左フックで二度目のダウン、それでも井上は「ナルバエスのパンチはまだ死んでいなかった。判定勝利をするつもりでいたし、冷静に進めた」と、そこでは無理に勝負を決めにいかず、2ラウンド目に入った。
 実は、衝撃の右ストレートで井上も、拳を痛めた。ハードパンチャーゆえの宿命でもある。しかし、井上は心を折らなかった。右が駄目なら左がある。

 さらに衝撃だったのは、3つ目のダウンである。
 サウスポーを相手に、その右のフックを上体のスウェーというディフェンステクニックで外すと、そこに左フックをカウンターで合わせたのだ。ナルバエスは、また倒れた。
 大橋ジムの初代世界チャンピオンである元WBC世界Sフライ級王者の川嶋勝重氏は「あれは練習を積んでもできないパンチ。特にサウスポーの見えにくいパンチを外して、そこにカウンターを合わせるのだから、とんでもない才能だ」と驚いていた。
 それでもナエバエスは意地で立った。最後は左のボディアッパー。
「ガードが上なので腹があくのはわかっていた。これも研究していたパンチです」
 めりこむような衝撃のブローに伝説のチャンプは、もう立ちあがることはできなかった。

 わずか361秒のタイトル奪取。
「ダウンをしたことのない伝説のボクサーが最後は心を折った」
 大橋会長が、興奮気味に話すと、控え室でナルバエスは「階級が上の選手のパンチのようだった。あの少年には凄い未来が待っているだろう」と21歳の新王者を讃えた。
「2回でKOなんて考えてもしなかった。ブロックも硬かったし、キャリアでやられるんじゃないかという色々なプレッシャーもあった。でも減量から解放され、試合前からワクワクして楽しかった。これぞボクシングだと思った」
 腰にエンジ色のWBOベルトを巻いて勝利会見に臨んだ井上は、「重いし斬新な感じでかっこいい」と、綺麗な顔をして笑った。

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最終更新:2016/2/7(日) 3:32
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