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<インド>ガネーシャの恩寵 ── 高橋邦典フォト・ジャーナル

2015/1/20(火) 20:00配信

THE PAGE

 「しまった!」足を滑らせたときにはもう遅かった。なんとか踏ん張ろうとしたが、あっというまに水面が迫ってきた。海のなか、沖に向かい歩きながら撮影をしているときのことだ。

 ヒンドゥー教の神々のなかでも、もっとも親しまれているガネーシャの生誕を祝うガンパティ祭り。10日間の期間中、大小さまざまなガネーシャ像が海に沈められる。これはビサルジャンとよばれ、神が信者の苦難を取り除いたあと、然るべき場所へ帰っていくことを象徴するものだ。

 このビサルジャンを撮影中に、僕は海底にあった何かにつまづいた。カメラが海水に浸ればもう修理は不能。反射的に体をひねり、左肩から水に突っ込みながら、僕はカメラを握っていた右手を精一杯海面上に高く上げた。もう顔も上体も水の中だ。しかしこんな格好が長く続くわけもない。もうだめかと思ったその瞬間、奇跡がおこった。近くにいた男が、このわずか1、2秒の瞬間に、水面につきだしたカメラを取り上げてくれたのだ。

 祭りの盛大さもさることながら、このときの経験は忘れられないものになった。いま思えば、カメラが救われたのも、ガネーシャの恩寵だったのかもしれないな、そんな気がしないでもない。

(2010年9月)

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高橋邦典 フォトジャーナリスト
宮城県仙台市生まれ。1990年に 渡米。米新聞社でフォトグラファーとして勤務後、2009年よりフリーランスとしてインドに拠点を移す。アフガニスタン、イラク、リベリア、リビアなどの紛争地を取材。著書に「ぼくの見た戦争_2003年イラク」、「『あの日』のこと」(いずれもポプラ社)、「フレームズ・オブ・ライフ」(長崎出版)などがある。ワールド・プレス・フォト、POYiをはじめとして、受賞多数。

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最終更新:2015/3/23(月) 3:15
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