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<インド>猿との闘い ── 高橋邦典フォト・ジャーナル

2015/6/2(火) 10:00配信

THE PAGE

 見事な早業だった。路上のバナナ売りの背後からこっそりと近づいた一匹の猿は、ほんの隙をついて、両手で二本のバナナを鷲掴み房からもぎとった。 店の親父さんが気付いた時には時すでに遅し。一本を口につっこみながら、猿は素早く走り去った。山里などではなく、首都デリーの真っ只中での光景だ。

 インド北部では、こんな「猿害」が後を絶たない。店先の食べ物をかっさらっていくのは可愛い方で、窓から民家に侵入して冷蔵庫を物色することもあれば、人間をひっかいて危害を加えることもある。それでもヒンドゥー教の神のひとつ、猿の姿をもつハヌマーンの化身と考えられているから、あまり邪険にあつかうこともできない。そこで組織されたのが、特別な猿の撃退部隊だ。彼らの主な武器は「叫び声」。ラングールとよばれる大きな種の猿の鳴き真似をすることで、町に多数存在するマカキュー種の猿たちを脅かし追っ払う。徒党を組んで奇声をあげる男たちの姿はなんとも滑稽ではあるが、デリー市によれば、訓練を受けた約40人が市内ですでに活動中とのことだ。しかし、捕獲するわけではないので猿の数は減らないし、単なるその場しのぎの対策にすぎないのだが、それがなんともインドらしい。

 今日もどこかで猿たちは、誰かの家に侵入してご馳走をあさっていることだろう。

(2015年1月)

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高橋邦典 フォトジャーナリスト
宮城県仙台市生まれ。1990年に渡米。米新聞社でフォトグラファーとして勤務後、2009年よりフリーランスとしてインドに拠点を移す。アフガニスタン、イラク、リベリア、リビアなどの紛争地を取材。著書に「ぼくの見た戦争_2003年イラク」、「『あの日』のこと」(いずれもポプラ社)、「フレームズ・オブ・ライフ」(長崎出版)などがある。ワールド・プレス・フォト、POYiをはじめとして、受賞多数。

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最終更新:2016/1/6(水) 4:57
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