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<インド・ブッダガヤ>心洗われる場所 ── 高橋邦典フォト・ジャーナル

2015/7/2(木) 20:00配信

THE PAGE

 日の出前のマハボディ寺。まだ薄暗いなか、腰を降ろし瞑想に耽ける僧侶たちや、合掌し、祈りながら塔のまわりを歩く人々の姿がみえる。寺の中庭ではチベット僧たちが、体を地面に投げ出し、起き上がっては祈る五体投地を延々と繰り返していた。

 現在ここにある菩提樹は仏陀が悟りを開いた当時のものではなく、四代目にあたるという。挿木によってその生が受け継がれてきたのだ。いまでは樹の保護のため、まわりに柵がめぐらされ、根幹に手を触れることはできないし、拝むことさえもままならない。それでも柵の上から大きく広げられた枝の下では、座禅を組んだり、経を読む多くの人々の姿が絶えることはない。

 「なんだか心が洗われたような気分になりました…。」

 日本から訪れていた僕の妹が、感慨深けにつぶやいた。

 それまで撮ることに追われ、視覚にばかり意識を集中してきた僕も、石段に座り、カメラを脇に置いてしばしの間目を閉じてみた。うるさいばかりの鳥のさえずりと風に揺れる木葉の音。それに経を唱える声が融合して、なんとも言えない心地よい空間をつくりだしている。朝食までには一旦宿に戻ろうと思っていたが、そんな時間の感覚をふと失ってしまうようだった。

(2014年11月)

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高橋邦典 フォトジャーナリスト
宮城県仙台市生まれ。1990年に渡米。米新聞社でフォトグラファーとして勤務後、2009年よりフリーランスとしてインドに拠点を移す。アフガニスタン、イラク、リベリア、リビアなどの紛争地を取材。著書に「ぼくの見た戦争_2003年イラク」、「『あの日』のこと」(いずれもポプラ社)、「フレームズ・オブ・ライフ」(長崎出版)などがある。ワールド・プレス・フォト、POYiをはじめとして、受賞多数。

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最終更新:2015/9/2(水) 5:13
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