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シリコンバレーは「自動車」を作れるか?

2015/11/25(水) 20:00配信

THE PAGE

 近年、経済評論家、あるいはIT関係の人が書いたものを読むと「自動車業界はグーグルとアップルの軍門に下る」という論調をよく見かける。

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 かつてIBMがマイクロソフトとインテルに主導権を奪われてパーソナルコンピューターの覇者の座から転げ落ちたことになぞらえ、車両制御コンピューターにグーグルやアップルの汎用OSを採用すると、後戻りのできない転落の道を進み、自動車メーカーがハードウェアメーカーから、たんなるハードウェアのサプライヤーに転落するという予想だ。

リアル店舗が不可欠な自動車ビジネス

 率直に言えば、そんな話は寝言にしか聞こえない。第一にクルマという商品はアフターサービスの拠点がないと話にならない。コンピュータの世界は一流メーカー品であってもバグがあるのは当たり前で、あとからバージョンアップと称してパッチファイルをばら撒けばことが済むが、自動車の世界ではそれはリコールである。膨大なDMを発送して、それでも修理に来てくれないユーザーには営業が足を運んでリコール修理のお願いをして回る。

 もっと言えば、メーカーがリコールの申請を監督官庁に出したが最後、リコール修理を終えていないクルマは車検を通らない。こういうアフターサービスを実施するためには、どうしても物理的な店舗をエリアごとに配置しなくてはならない。リアル店舗を全国展開するビジネスをグーグルやアップルが手がけるメリットは皆無だ。コンビニや郵便局と提携してリコール修理ができるわけじゃないのだ。

メーカーとサプライヤーの役割は違う

 コンピュータの場合、バスとOSという標準に対して数多くのサプライヤーが同調を取る必要があったからデファクトスタンダードが形成された。旗振りが存在せず、マーケットに任されているが故に、それに同調する以外の選択肢がなかった。というか当初、その旗振りをIBMが独占していると勘違いしているうちに、互換機メーカーが一斉に反旗を翻して、勝手にスタンダードを打ち立ててしまったという方がより正確だ。

 しかし自動車の場合、例えばエンジン制御系ならエンジン制御系でAICE(自動車用内燃機関技術研究組合)の様なメーカー連合による標準化の旗振り組織があるから、そもそもOSを牛耳ることができない。OSはクルマという製品のために存在しており、OSがあるからクルマができるという順番にはならないのだ。IBMに対するコンパックのような新興自動車メーカーが突然現れて、旗振りを無視して勢力を拡大することは限りなく難しい。

 それはこういうことだ。例えば、エンジン水温に応じた燃料噴射量の補正マップを作る時、サプライヤーはメーカーからの設計仕様指示を受け、それに対応したソフトウェアを作ることは確かにできる。それが通常のビジネスである。しかし、そのマップのどこがクリティカルで、どこが余裕があるのかというようなことは、膨大な実験結果や、修理現場からのフィードバックがある自動車メーカーにしか分からないし、そうした内容は絶対に開示しない。

 つまり言われた通りのものは作れるが、どうしたら製品がより良くなるのか、あるいは仕様の違う他のクルマにマッチングできるかというノウハウをサプライヤーは持っていないのだ。そういうアナログな領域がクルマの信頼性とドライバビリティを決めて行くのであって、結果だけ知っていればコピーできるものではない。

 現在のクルマは多くのメガサプライヤーが供給する部品によって成立しているが、それでもサプライヤーによる下克上が起きないのは、製品として成立させるための判断は全てメーカーが握っており、サプライヤーはメーカーが決定した製品を作っているに過ぎないからだ。

 もし、彼らの言う通りグーグルやアップルが自動車メーカーを牛耳れるのだとしたら、車両制御の多くを受け持つボッシュやデンソーがとっくに自動車メーカーを牛耳っている。そうなっていないのは、製品を製品たらしめる要諦の部分はメーカーしか持っていないことに起因しているのだ。

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最終更新:2016/1/26(火) 3:50
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