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「医療はビジネスか、ボランティアか」大村氏ノーベル医学賞受賞から考える

2015/12/11(金) 10:00配信

THE PAGE

 12月11日(日本時間)、イベルメクチンという薬の開発への貢献でノーベル医学・生理学賞を受賞した北里大学特別栄誉教授の大村智氏が、同じくイベルメクチンの開発に携わった米国ドリュー大学名誉研究フェローのウィリアム・キャンベル氏、マラリア治療薬の開発で受賞した中国中医科学院終身研究員兼首席研究員のト・ヨウヨウ氏と共に、スウェーデン・ストックホルムで行われた授賞式に臨みました。今回は、大村智氏とウィリアム・キャンベル氏の研究がどのような形で医療現場に届けられたのかを紹介しながら、医療の発展のために考えなくてはならない課題を考えます。

土の中から発見された微生物が、難病の特効薬に

 今回、2人がノーベル賞を受賞することになった研究は、1970年代に静岡県で始まります。自然界にある微生物の研究を専門にしている大村氏は、静岡県伊東市にあるゴルフ場の土壌から「放線菌」と呼ばれる新種の細菌を発見しました。

 ちょうどその頃、ペニシリンやストレプトマイシンといった抗生物質の開発を手掛けていたメルク社(米国)は、創薬に応用できる可能性のある新しい微生物を発見するために、大村氏が所属する北里大学の研究所から土壌サンプルを入手。その中に、大村氏が発見した「放線菌」の入った土壌が含まれていました。このとき、土壌を研究するメルク社の上級研究員だったのが、大村氏と共にノーベル賞を受賞したウィリアム・キャンベル氏です。ここで、放線菌を発見した大村氏が持つ“バトン”は、キャンベル氏へと引き継がれます。

 キャンベル氏は、北里研究所から送られた土壌サンプルを元に、数百回もの試験を実施。その結果、大村氏が発見した放線菌を含む土壌サンプル「S3153」の中に、有効成分である「エバメクチン」という新たな物質を発見し、この物質が当時アフリカなどの途上国で猛威を振るっていたオンコルセカ症(河川盲目症)や象皮病という寄生虫由来の感染症に有効であることを突き止めます。

 オンコルセカ症は、小さなブヨを媒介して体内に侵入する寄生虫で、体内で繁殖することで身体の至る所が強い痒みに襲われて皮膚の損傷を引き起こし、目に侵入すれば失明を招きます。また象皮病は、蚊が媒介する寄生虫で、体内に侵入することにより足が象の足のように太く硬くなることからその名がついています。

 世界保健機構(WHO)の1978年の統計によると、オンコルセカ症の感染者はアフリカを中心に約1800万人にのぼり、失明に至った重篤な患者も約34万人に。感染者を安全に治療する方法も確立しておらず、当時使用できた薬は強い副作用のため死者を出すほど。事態は深刻な状況でした。

 キャンベル氏によって発見されたエバメクチンは既に動物の感染症に有効であることがわかっていましたが、キャンベル氏は更にエバメクチンがこのオンコルセカ症や象皮病の治療に有効な“特効薬”なのではないかという可能性を考え、メルク社も後に誕生する抗寄生虫薬「イベルメクチン」の創薬に向けた検討を行います。しかし、そこには大きな壁が立ちはだかっていました。

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最終更新:2016/2/11(木) 2:52
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