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原発作業員を「人」として描く 漫画「いちえふ」に込めた思い

2016/1/27(水) 14:45配信

BuzzFeed Japan

廃炉作業員が描いた原発の日常

福島第一原発(通称1F、いちえふ)の作業員が描いたルポ漫画として大反響を呼んだ「いちえふ-福島第一原子力発電所労働記」(講談社)が連載を終えた。原発という時事性の高いテーマを扱ったが、描いたのは作業員の日常。売り上げ35万部に達し、欧州各国などで翻訳も決まった。原発をめぐる世論は分断され、対話すら難しい状況に陥っている。作者の竜田一人さんが現場で学んだ、意見の対立を乗り越えるヒントとは。【石戸諭】

覆面漫画家「竜田一人」の登場はニュースだった。2013年10月、漫画雑誌「モーニング」に福島第一原発の現役作業員が描いた漫画が掲載された。新人賞受賞作だった。それまで実態がほとんど知られていなかった原発作業員の姿を、圧倒的なリアルさで描いたルポ漫画は反響を呼び、すぐさま連載が始まった。

竜田さんはこのとき48歳。都内の大学を卒業後、コンビニ廉価本、アダルト漫画などで、生計を立ててきた「売れない漫画家」にとって、初めてのヒット作だった。昨秋、竜田さんが働いた2012年、2014年の体験を描き終え、連載を「いったん」終了した。ほぼ同時にフランス、イタリアなどヨーロッパ各国での翻訳も決まった。

竜田さんの人生の転機は3・11だった。

「好奇心と、被災地の役に立ちたいというほんの少しの義侠心」。どうせ行くなら、人手が必要だろうと思い、福島第一原発に向かう。目先の仕事もなかったからだ。

そこで竜田さんが見たのが、作業員の日常だった。原発の中で見てきたこと、メディアで報じられている「福島の真実」への違和感。漫画を描くために行ったわけではないが、現場で見たことを記録しようと思った。

「『いちえふ』は福島の隠された真実を暴く漫画ではなく、私が作業現場、福島で観察したことを描いているだけです。上からは絶対に語らない。『下から目線』で固定しています。いまでも、自分は漫画家と作業員が半々という感覚です」

「いちえふ」1巻、タバコ部屋でギャンブルや下ネタで談笑する作業員の姿が描かれる。オジさん達が好きな話はどこでもそう変わらない。作業員もまた人間。地元出身の作業員は事故を起こした東京電力に対し、怒りをあらわにしながらも作業に取り組む。それでも、どこかで息抜きの時間もある。

竜田さんが描いてきたかったのは、「いちえふ」の中の様子というより、人だったのかもしれない。

「そこは『いちえふ』通じて描いてきたポイントでもあります。作業員も普通の人です。みんながいろんな思いで廃炉作業に携わっています」

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最終更新:2016/1/27(水) 14:45
BuzzFeed Japan