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「人間の役に立つ」はずが、害虫扱い! 憐れなセイヨウオオマルハナバチ

2016/2/7(日) 10:00配信

THE PAGE

 ペットや輸入品に付着し、検疫をくぐり抜けて侵入してくる日本に存在しないはずの外来種が、様々な問題を引き起こしていることを紹介してきました。一方で、人間の生活や経済・生産活動に役立つようにと、人為的に導入された外来種も存在しています。私たちの都合で、連れて来られた外来種の現状と問題点について国立環境研究所・侵入生物研究チームの五箇公一さんが解説します。

終わりなき外来種の侵入との闘い

愛らしい姿のハナバチはじつはヨーロッパ原産

 春から夏にかけて野山に行くと、体中が毛むくじゃらの可愛らしいハチが花に訪れて、一生懸命花粉を集めている姿をよく見かけることができます。毛の色と模様のパタンも様々で、全身黒づくめでお尻が茶色いものや、トラ柄のもの、鮮やかな朱色のもの……などなど、多様な衣装を身にまとったこのハチたちはマルハナバチと呼ばれるハナバチの仲間です。

 マルハナバチの仲間は世界中の冷温帯に生息し、日本では北海道から九州まで広く分布します。とくに北海道では、短い夏に一斉に咲き乱れる花をめざして多様な種のマルハナバチが飛び回ります。そんな中で、黄色と黒のストライプの毛皮を身にまとい、お尻が真っ白な、ひと際鮮やかな色彩のマルハナバチが目立って飛んでいます。実はこれはヨーロッパから日本に持ち込まれたセイヨウオオマルハナバチという外来種なのです。なぜ外来種のマルハナバチが北海道の平原に住んでいるのか? もちろん、持ち込んだのは人間であり、我々日本人自身です。

トマトの授粉に大活躍

 セイヨウオオマルハナバチはヨーロッパ原産で、1980年代から、主にハウス栽培トマトの花粉媒介昆虫として利用されています。オランダやベルギーにある、天敵農薬などの農業用生物資材を製造する会社が、人工増殖したセイヨウオオマルハナバチの巣を販売しています。巣の入った段ボール箱を、トマトが栽培されているビニルハウスやガラス室の中に置いて、箱についているハチの出入り口を開けてやれば、働きバチがハウス内に飛び回り、トマトの花から花へと花粉を運んでくれます。

 農作物の花粉媒介用昆虫で有名なのは、セイヨウミツバチですが、トマトの花は、蜜を出さないうえに、葯(おしべの先の花粉が作られる器官)を振動させないと花粉が集められないため、セイヨウミツバチは使えませんでした。農業現場では、マルハナバチが導入されるまでは、自分の手で花粉を運ぶか、「植物成長ホルモン剤」という化学物質を花にかけて、授粉なしで花に実を作らせなくてはなりませんでした。この作業は重労働であり、農業従事者にとっても大きな負担となっていました。

 マルハナバチは、蜜を出さない花でも、花粉を集めに来て、大きな体を震わせながら、花粉を集めて運んでくれるので、トマトの花粉媒介昆虫としてとても優れています。セイヨウオオマルハナバチを導入したことで、農家さんたちは面倒なホルモン剤散布の手間から開放され、省力化された分、生産力をあげることができました。さらに自然授粉したトマトは甘くてジューシーで、ホルモン結果トマトよりも品質が高い。また、生きたハチをハウス内に飛翔させるため、必然的に農薬の使用回数を減らすこととなり、減農薬・省農薬の生産物として、トマトの商品価値の向上にもつながる。まさにトマト生産の救世主と言っていい存在なのです。

 日本でも、1992年よりセイヨウオオマルハナバチの商品コロニーの導入が開始されました。輸入当初は年間の流通量が4,000コロニー程度でしたが、年々その数は増えて、2007年には年間流通量は6万コロニーを超えました。いまや、トマト生産には欠かせないアイテムとして農業現場に受け入れられています。

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最終更新:2016/2/7(日) 10:00
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