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クスリへの欲求、患者の日常と治療の最前線

2016/2/13(土) 8:45配信

BuzzFeed Japan

元人気プロ野球選手、清原和博容疑者が覚せい剤取締法違反(所持)容疑で逮捕された。逮捕以降、本人の人となりなど多くのニュースが報道されている。しかし、薬物依存症の実態について、理解は進んだのか。治療の最前線を専門家に聞いた。【石戸諭】

「ペットボトルの水を見て、何か感じますか」。薬物依存症治療の第一人者、国立精神・神経医療研究センター病院の精神科医、松本俊彦さんはそう問いかけてきた。

「水だとは思いますが…」と答えると、松本さんはこう続けた。

「依存症の患者に見せたら、これで覚せい剤欲求のスイッチが入ったって言いますよ。覚せい剤の粉を水に溶いて、注射器に入れて打ったことを想起するわけです。これだけで脳は快楽を思い出すんです。覚せい剤依存症の患者は脳がクスリにハイジャックされた状態なのです」

覚せい剤というと「続けているほうが悪い」「使っている人は意志が弱い」と思われがちだ。しかし、「気合や気持ちでなんとかなるというのは、薬物依存症を甘くみている」という。

薬物依存の怖さは「人間の価値観を変えてしまう」ことにある。人には大事なものがある。家族、恋人、仕事、お金…。

しかし、薬物にはまり込んでいくと、大事なもの第1位が覚せい剤になり、大事なものはすべて覚せい剤に絡んだものになる。覚せい剤を許してくれる恋人、覚せい剤を買うための仕事、お金…。

「脳の快感中枢に直接作用するため、脳は快楽を簡単には忘れません。だからコントロールが難しいのです。厳しく罰して反省させればいいとか、強い気持ちを持てば再犯しないといった考えでは何も解決しない。だいたい、反省なんて簡単にするのです。素直に『クスリを使いたい』と言わないと、自分に嘘をつき続けることになる」

覚せい剤など薬物依存症はそもそも病気だ。それも「治らない病気」だという。

「治らないというと、ぎょっとすると思いますが、糖尿病や高血圧と同じよう に症状と付き合っていく病気です。自分と向き合って、コントロールすることで回復することはできる。これが大事なのです」

そこで重要なのは「欲求を素直に認めること」と強調する。

「水をみて、クスリを思い出していいんです。そこに欲求があることを自覚する。(クスリを)やりたいと認めることが第一歩なのです」。その上で、「水で欲求するならコーラやお茶を飲む、顔を叩く、誰かに電話をして気持ちを切り替える。治療プログラムを通じて、これをコントロールできるようトレーニングする」。

「治療プログラムを受けたとしても、彼らが安定した断薬生活を送るには、だいたい7~8回の再発機会があるというデータがあります。つまり、クスリが欲しくてしょうがない、あるいは使ってしまう機会が平均して7~8回はあるということなんです。安定と、再発するかもしれない時期の波を繰り返しながら、だんだんと落ち着きを取り戻すのです」

プログラムの中に失敗はすでに織り込み済みだと話す。松本さんは言う。

「強くなるより、賢くなろう」。

「依存症の患者って、実は『人に依存しない病』なんです。人は誰しも何かに頼って生きていますよね。依存しない人なんていない。どこかで、社会とつながりを持つことが、回復の第一歩です」

「大事なのはセルフケア。スポーツ選手だって、専属のトレーナーをつけて体をケアしていますよね。治療プログラムも同じです」

薬物依存症患者1人では回復できない。治療プログラムにつながり、社会とつながり、その中で回復を目指す。これが薬物依存症治療の最前線だ。

石戸諭

最終更新:2016/2/13(土) 8:45
BuzzFeed Japan