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運転の邪魔をする? 「電動パワステ」は何がダメなのか

2016/3/2(水) 18:10配信

THE PAGE

 クルマの善し悪しを評価する言葉に「フィール」という言葉がある。日本語では感覚ということになるのだろうが、感覚という言葉はちょっと多面性がありすぎる。『世界に一つだけの花』的にそれぞれ異なって別の価値があるように感じられる。その点、フィールには「良い」「悪い」の様な序列感があるのでこの場合、言葉として使いやすい。

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 ではフィールの「良い」「悪い」とはどういうことなのか? 今回はそのフィールの話をしつつ、電動パワステの問題点を考えて見たい。

「フィール」とは何か

 ここに1丁の包丁があるとしよう。包丁の性能は端的には切れ味だ。切れる包丁が良い包丁。切れないのはダメな包丁。では包丁におけるフィールとは何だろう。ちょっと想像して欲しい。手のひらに豆腐を載せて包丁で切る。抵抗なくスッと切れるはずだ。では次にまな板に大根を載せて切ってみる。大根の断面は円形なので、数学的には切り始めは点から始まる。切断線は徐々に伸びていき、やがて大根の直径と同じになる。そこをピークとして切断線が増加したのと対称に切断線は短くなって行き、最後は再び点で終わる。この時の反力の増減は、理系の人には正弦波(サインカーブ)の正の領域と言った方が分かりやすいかもしれない。要するに山成りに増えてから減っていく。

 実際に大根を切ると最初は力が要らないが、切断線の長さが増えるにつけ徐々に力が必要になり、中心を越えるとストンと最後まで一気に切れる。この力に対する刃の進み具合の変化が、手にフィードバックされてくることがフィールである。だから一度大根を切ったことのある人は間違っても手のひらの上で切ろうとは思わない。危ないことがわかるからだ。

 もし大根を切った時、豆腐を切った時と同じフィールになる包丁があったとしたら、危険の判断ができなくなる。だから包丁にとってフィールは切れ味と同様に重要な性能なのだ。この説明はマツダのエンジニアがとある技術説明会で使っていた例えだが、とても分かりやすいと思う。

 さて、この包丁のフィールを実現しているのは何か? 最低限の切れ味があることを前提にすれば、それは一義的には刃そのものと柄の剛性である。仮に包丁の柄が竹ひごの様な剛性の低いしなる素材で出来ていたら、刃が大根を切り進むフィールはたわみに吸収されてしまって感じることができない。とても危ないのは想像できるだろう。

 だから第一に大事なのは、加えた力の反作用としてフィードバックされる力が逃げないことなのだ。これが基本だ。しかし世の中の名品と呼ばれるものにはまだその先がある。みなさんご存じの工具、ペンチやプライヤーの名品に「クニペックス」というブランドがある。有名なのはウォーターポンププライヤーだが、整備士には「掴み物はクニペックス」という人が多い。このウォーターポンププライヤー、柄がしなる。今までと話があべこべじゃないかと思う人がいるだろうが、レンチで対象をくわえた時、アゴが対象物に当たって力を加えて行った先で柄のしなりによって、挟む力がある程度調整される。スポーツで言う「タメ」の様な働きをして、人間の力の制御ムラを安定させる剛性設計がされているのだ。つまり力を逃さない、安定させるという意味において、しなりには悪いしなりと良いしなりがあるのだ。

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最終更新:2016/3/2(水) 22:38
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