ここから本文です

「無数の死を受け入れる」麻薬戦争が終わり、平和に苦しむ記者たち

2016/4/4(月) 19:27配信

BuzzFeed Japan

かつて、紛争地帯を除くと最も危険な都市と言われた、メキシコの街シウダー・フアレス。麻薬戦争の取材を担当していた記者たちは、ようやく訪れた「平和」に適応するのに、苦しんでいる。
【BuzzFeed Japan】

メキシコ。シウダー・フアレス。かつて、紛争地帯を除くと最も危険な都市と言われた街だ。地元新聞「エル・ディアリオ・デ・フアレス」のカメラマン、ルシオ・ソリアは、警察無線が耳障りな音をたてると、無線傍受装置をひっつかみ、耳に押し当てる。

「行け、行け、行け!」ソリアが言う。その数秒後には、階段を跳ぶように駆け降りる。駐車場に停めたフォード・レンジャーに乗りこみ、携帯電話を操作しながら、ノロノロ運転の車をジグザグ運転で追い越す。ハイウェイの信号が赤に変わると、大声で罵りながら急ブレーキをかける。

ソリアはこれまで、シウダー・フアレスの街で3500人以上の殺人事件の犠牲者を写真に収めてきた。誰よりも早く犯罪現場に到着し、被害者を独占し、ずたずたにされた死体に、できるだけレンズを近づけて撮影することで、生きていることを実感していた。2つの切断された頭部を、まだ生きていれば吐息を感じることができそうな近さから撮影した。誇りと渇望の入り混じる思いで回想した。

しかし、この日は違う。この日だけではない。実はここ数年、ずっと違っていた。シウダー・フアレスの街は、静かになったのだ。

行く手には、警察官たちが横転した無人のバンの近くを、とぼとぼと歩いている。ソリアはその周辺を歩きながら、ほとんど無傷の女性が、助手席でうなだれている車の中をこっそりのぞきこむ。「小さなネタだが、少なくとも仕事の数には入るからな」と言う。

4年前であれば、自動車事故の取材など考えられないことだった。 記者には取材する時間がなく、紙面にも掲載するスペースがなかった。当時は、週に60の殺人事件が発生し、ジャーナリストたちはカメラの設定を調整し、犯罪現場で被害者の名前を書きとめると、また別の現場に急行した。シウダー・フアレスの街は 殺人の都として世界中に知れ渡っていた。 ソリアの写真はその大量殺りくを、ありありと捉えていた。

1/5ページ

最終更新:2016/4/4(月) 20:18
BuzzFeed Japan