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認知症JR事故の判決 「総合的な判断」とはどういうこと?

2016/4/8(金) 8:00配信

THE PAGE

 愛知県大府市で認知症の男性(当時91歳)が徘徊中に列車にはねられて死亡した事故をめぐる、JR東海が家族に損害賠償を求めた訴訟の上告審判決。最高裁第三小法廷は、介護する家族に賠償責任があるかは生活状況などを総合的に考慮して決めるべきだとする判断を初めて示し、JR東海の賠償請求を棄却しました。この「総合的な判断」とは一体どういうものなのでしょうか?

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認知症患者の家族の責任が減る傾向に

 みらい総合法律事務所の谷原誠弁護士は、今回の判決のポイントについて「今まで考えられていたよりは、家族の責任を減らす方向になりました。第一審では事実上、その認知症患者を監督していれば責任が発生してくるというような、広い解釈がされていました。しかしこの判決によって、『単に監督するだけでは法的責任は問えない』という風に変わったのです」と説明します。

 民法714条は、責任能力のない認知症患者らによる賠償責任を「監督義務者」が賠償すると定めています。ただし、認知症患者の家族が必ずしも監督義務者に当たるとは限らず、今回の訴訟では「家族が義務者に当たるのか」が争われていました。二審では、妻が精神保健法で規定する認知症患者の保護者制度の趣旨から、夫婦の同居、協力及び扶助の義務に基づき、「法定の監督義務者」と認定しましたが、最高裁でこれを否定しています。

 その一方、最高裁の見解では「法定の監督義務者と同じような立場の人であれば、公平な見地から責任を負わせてもよい」とし、これを「監督義務者に準ずべき者」として、民法714条の法定監督者責任の類推適用を認めました。

「監督義務者に準ずべき者」とは?

 谷原弁護士は「今回の最高裁判決では事実上ではなく、認知症患者が他人に損害を与えないような積極的な関与を家族がしていた場合にのみ、初めて『監督義務者に準ずべき者』としての責任を負ってもらうということになりました」といいます。

 そして、その関与の度合いを決めるのが、介護する家族の健康状態、親族関係の濃密さ、同居しているか、介護の実態などを総合的に考慮して判断すべきだとしたのです。本件では、男性の妻は事故当時85歳と高齢の上、体に麻痺がある「要介護1」の認定を受け、男性の長男は別居していました。これらから最高裁は、いずれも「男性が損害を与えないよう、監督が可能な状態だったとはいえない」と総合的に判断したのです。

 もし、妻が心身ともに健康で、男性の外出を防止するために、男性を常時監視し、センサーを玄関に設置し、さらに施錠して監視する体制を築き、かつそれが可能であった場合は、「監督義務者に準ずべき者」とされ、事故による損害賠償責任が認められる可能性もありました。逆に言うと、「ただ普通に介護をしているだけでは、事故による損害賠償責任は親族には及ばない」(谷原弁護士)のです。

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最終更新:2016/4/8(金) 22:10
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