ここから本文です

偽りの記憶が「史実」になる恐れ 戦争証言とメディアの責任

2016/6/19(日) 6:00配信

BuzzFeed Japan

戦争証言、聞き手の心構え

遣独潜水艦作戦に関しては、記録文学の大家である故・吉村昭氏が『深海の使者』を書いている。その文庫版の解説で、作家・半藤一利氏が吉村氏が語った言葉を記している。

“初めて『戦艦武蔵』を書いたころは、関係者の九〇パーセント近くが健在だったから、取材もたっぷりできた。けれども、年を追うごとにその数はどんどん減っていって、『深海の使者』を書くために調べだしたときには、三五パーセントほどしか証言者がいなかった。(中略)証言者の激減は、これじゃ正確な戦史小説を書けないという事実を、いやというほど僕に思い知らせた。それで執筆を断つことにしたのです。”

深海の使者が刊行されたのは1976年。その当時ですら、吉村氏はこのような問題意識を持ち、戦争について書くことを諦めた。

それから40年。今では戦時中に物心ついたばかりの人たちでも、80歳近い。兵隊としての経験がある人は90歳だ。体験を証言してもらっても、記憶違いをしている可能性もあり、その内容がすべて正確だとは限らない。

聞き手はどのような心構えを持つべきか。そのポイントを大木氏に聞いた。

・疑いながら聞く

「失礼な言い方になるが、証言者は、自分にとって都合の悪いことは話さないこともある。たとえば、最前線で補給が途絶えて苦境に陥った結果、部下を見殺しにした、というような体験をすれば、証言者からの信頼を得ないかぎり、本当のことを話すわけがない。また、そういうことがなくても、長い年月のうちに記憶が変わっている可能性もある」

「事実に迫ろうだとか、肩に力を入れないことが大事。お年寄りの昔語りを聞くという気持ちで、『本当かな?』と疑いながら聞くくらいがちょうどよい」

・間違いを指摘しない

「話された内容に明らかな誤りがあっても、無下に指摘しないこと。本人は『自分はこういう体験をした』と信じて疑わずに話している。また、人間は自分の聞きたいことや興味のあることは頭に残りやすいため、時間を経たのちに語ってもらうと、話の食い違いが生じることもある」

・証言を加工しない

「話してもらったことを、そのまま書き留めるのが一番よい。編集してしまったり、整合性を持たせるような加工をすると、後に検証ができなくなる」

・専門家に聞く

「話された内容をすべて鵜呑みにしてはいけない。戦争証言の背景について矛盾を感じた場合は、まずは防衛省戦史研究センターに問い合わせるのがよい」

「どの空襲でどこの地区にどんな被害があったか、といった細かい内容が知りたければ、各自治体の、市史、県史など地方史を作っている担当部署に聞くのがよいだろう」

2/3ページ

最終更新:2016/6/19(日) 13:15
BuzzFeed Japan