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自転車で日本縦断したろうの映画監督 「聞こえない」の先にあったもの

2016/10/23(日) 11:00配信

BuzzFeed Japan

コミュニケーションとは、何なのか。そんな問いの答えを知ろうと、自転車で日本を縦断した、ろうの映画監督がいる。計57日間3824kmの旅。彼女は、何を見つけたのか。【BuzzFeed Japan / 籏智広太】

「聞こえる人はわかってくれない」

今村彩子さん(37)は、生まれつき耳が聞こえない。コミュニケーションも、不得意だ。

特に、聴者(耳が聞こえる人たち)との会話が苦手。話すときは、相手の口を見て、言葉を読み取る。

でも、テンポが速くなると、何を言っているのか、わからなくなってしまう。「もう一度言って」と伝えたらめんどうくさい顔をされて、傷ついた経験が、何度もある。

ろう学校ではなく、一般の小学校に通っていた。女子同士の会話の輪に入るときは、みんなが笑ったら、話がわかったフリをして笑っていた。聞こえないとは、誰にも言えなかった。

ただひたすら、寂しかった。中学校の途中で、ろう学校に転校。いつしか、「聞こえる人はわかってくれないんだ」と、怒りすら抱えるようになっていた。

自らが変わるための日本縦断

その後、今村さんはろう者の世界で生き続けてきた。

聞こえないから、とコミュニケーションを絶ってきた自分を「言い訳して逃げている」と責めることもあったけれど、変わろうとはしてこなかった。

そうして暮らしていた2年前、母や祖父を相次いで亡くした。深く落ち込んだ。そうして「自分も、変わらないといけない」と考え始めるようになっていた。

「飛び込まないと、次のステージに進まないと」

それまでも映画監督として、東日本大震災で被災したろう者のドキュメンタリー作品などを撮り続けてきた今村さん。今回は、自らが成長する過程を描く、セルフドキュメンタリーを撮影することにしたという。

そこで選んだのが、日本縦断だった。旅先でたくさん出会うであろう人たちと、「コミュニケーション」を生むためだ。

平坦ではない道のり

旅は、沖縄からスタートした。聴者である伴走者兼撮影役の哲さんが一緒だ。

でも、コミュニケーションするときは助けを借りない、というルールも設けた。

平坦な道のりではなかった。道中で出会った人たちは300人もいる。ただ、聴者の人たちと、結局コミュニケーションが交わせないまま、どんどんと時間ばかりが過ぎていく。

耳が聞こえないと言い出せない、話してもよく分からない、だから、話しかけられない……。

旅先でろう者とばかり会って、ホッとしている自分に嫌気がさすこともあった。道も聞けずに、ずっと迷い続けてしまうこともあった。

そのイライラを哲さんに怒りをぶつけ、喧嘩ばかりしてしまう。そうすると、こう怒られた。「聞こえないからじゃない。コミュニケーションを切ってるのは、今村さんだ」と。

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最終更新:2016/10/23(日) 11:00
BuzzFeed Japan