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ノーベル文学賞 ボブ・ディランと日本のヤクザ。ある詩をめぐる、不思議な関係

2016/10/30(日) 8:22配信

BuzzFeed Japan

それは、幻の名作「浅草博徒一代」が織りなす物語

ついにノーベル文学賞を受け取ると明言したボブ・ディラン。ロックだけでなく、文学史にまで一石を投じた彼が、その表現を自らの歌詞に取り込んだ作品が日本にある。かつて盗作騒動も巻き起こった、その作品の名は「浅草博徒一代」(新潮文庫)。関東大震災、そして2度の戦争を生き抜いた、浅草のヤクザ・伊地知栄治の一代記である。日本ですら入手が難しい本のどこに、ディランは惹かれたのだろう。【石戸諭 / BuzzFeed Japan】

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「浅草博徒一代」を書いたのは、茨城県の医師、佐賀純一さんだ。いまなお、現役の医師にして、地域史をテーマにした作家としても知られる。ボブ・ディランと同じ1941年生まれだ。自身の患者だった伊地知から、亡くなる直前に聞いた話をもとにまとめあげた。

物語は、伊地知のこんな誘いから幕を開ける。

「先生は陽の当たるまっとうな世間を歩いてきたようですが、たまには変わった話を聞くのも面白いかもしれませんよ」。医師は、伊地知が住む家に足を運ぶ。雨の日に、男は待っていた。「あばら屋」でずっと。

みかんが積まれたこたつで向かい合い、やがて告白が始まる。

「そもそも、わたしが悪縁に染まったのは十五のときでした……」。声は低くしわがれ、重い。しかし、聞き取りやすかったという。

その人生、まるで転がる石のよう

診察を終え、伊地知の家に向かい、その肉声を録音した。あるときは関東大震災、あるときは彼が手を染めた殺人、あるときは賭場……、彼の話に耳を澄ます。

佐賀さんは話に引き込まれ、彼の家にいるのに、彼の後をついて「深川を歩いたり、鴬谷の賭場に座っていたりする」「静かな声がしんと静まった部屋に響き渡り、札束が畳に滑ると、壺の中のサイコロがからからと乾いた音をあげる」。そんな錯覚を覚える。

常に「我が道を行く」その姿は、さながら転がる石のよう。

医師としての日常とまったく異質な、しかし、どこか他人事とは思えない空気を共有していった。戦前から戦後の激動期をヤクザ、アウトローがどのように生きてきたのか。ひとりの男の人生に、濃密に時代が絡まっていく。

著作は1989年2月に出版。話題は海外にも飛び火し、英訳版ペーパーバック「Confessions of Yakuza」(あるヤクザの告白)も出た。

いまの評価としては時にあらわれる、優れた記録文学といったところだろう。日本文学を代表する名作と挙げる人はまずいないだろうし、なにより、絶版となり入手自体が難しくなってしまった。

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最終更新:2016/10/30(日) 13:04
BuzzFeed Japan