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【受賞スピーチ全文】村上春樹さん「影と生きる」アンデルセン文学賞

2016/10/31(月) 21:19配信

BuzzFeed Japan

デンマークの童話作家アンデルセンにちなむ「ハンス・クリスチャン・アンデルセン文学賞」の授賞式が10月30日、生誕地オーデンセであった。受賞した村上春樹さん(67)は英語スピーチで、アンデルセンの小説「影」を取り上げ、自らの執筆の姿勢と重ねて、影から逃げずに生きる重要性を説いた。【BuzzFeed / 溝呂木佐季】

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BuzzFeed Newsは村上さんの英語スピーチ全文を委員会から受け取った。日本語訳は次の通り。

最近になって初めてハンス・クリスチャン・アンデルセンの短編小説「影」を読みました。僕がきっと気にいるだろうと、デンマーク語の通訳メッテ・ホルムが薦めてくれたのです。読んでみるまで、アンデルセンがこのような小説を書いていたとは思ってもみませんでした。

「影」の日本語訳を読んでみて、強烈で恐ろしい筋の話だと思いました。日本で多くの人たちにとって、アンデルセンは子ども向けおとぎ話の作者として知られていて、彼がこのように暗く、希望のないファンタジーを書いていたと知って、驚きました。
そして自然と疑問に思ったんです。すなわち「なぜ、このような小説を書かなければならないと感じたのだろうか」と。

小説の主人公は、北国の故国を離れて、南国の外国を旅する若い学者です。思ってもみないあることが起きて、彼は影をなくします。もちろん、どうしたらいいのかと困惑しましたが、なんとか新しい影を育て、故国に無事帰りました。

ところが、その後、彼が失った影が彼の元に帰ってきます。その間、彼の古い影は、知恵と力を得て、独立し、いまや経済的にも社会的にも元の主人よりもはるかに卓越した存在になっていました。

言い換えれば、影とその元の主人は立場を交換したのです。影はいまや主人となり、主人は影になりました。

影は別の国の美しい王女を愛し、その国の王となります。そして、彼が影だった過去を知る元の主人は殺されました。影は生き延びて、偉大な功績を残す一方で、人間であった彼の元の主人は悲しくも消されたのです。

アンデルセンがこの小説を書いたとき、どんな読者を想定していたのかわかりません。しかし、読み取れるのは、僕が思うに、おとぎ話の書き手であるアンデルセンが、ずっと取り組んできた枠組みを捨てて、すなわちそれは子ども向けの物語を書くことでしたが、その代わりに大人向けの寓話の形式を使って、自由な個人として、大胆に心の内を吐露しようとしたことです。

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最終更新:2016/10/31(月) 21:19
BuzzFeed Japan

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