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世界に誇る江戸庶民の識字率 優秀読者とプロ技術、パクリもありの出版事情

2016/11/8(火) 17:00配信 有料

THE PAGE

 江戸時代の大衆文化のひとつである「かわら版」は、なぜここまで庶民に浸透し、愛されてきたのでしょうか? かわら版の内容にはゆるいものから、まじめなものまで様々でしたが、文字を読める人が多く、読むのが好きだったことが想像できます。

 今回は江戸時代の読者と出版事情、そしてかわら版の発行が非合法だったゆえに発生した問題などについて、大阪学院大学、准教授の森田健司さんが解説します。


  江戸の庶民の驚異の識字率

 江戸時代の終わり頃、日本人の識字率は極めて高い水準にあった。これは、疑う余地のない事実である。しかし、その「極めて高い水準」とは、一体どの程度のことなのだろうか。

 それを考えるための、興味深い史料がある。幕末、開国によって一気に日本に押し寄せてきた外国人たちの「証言」である。

 プロイセン(現在のドイツ)の使節団の一員として、1860(万延1)~1862(文久2)年にかけて日本に滞在したラインホルト・ヴェルナー(1825~1909年)は、そのときに見聞したものを、帰国後に一冊の書にまとめた。そこには、次のような言葉を見付けることができる。

 「日本では、召使い女がたがいに親しい友達に手紙を書くために、余暇を利用し、ぼろをまとった肉体労働者でも、読み書きができることでわれわれを驚かす。民衆教育についてわれわれが観察したところによれば、読み書きが全然できない文盲は全体の1パーセントにすぎない。世界の他のどこの国が、自国についてこのようなことを主張できようか?」(金森誠也・安藤勉訳、R・ヴェルナー著『エルベ号艦長幕末記』(新人物往来社)、90ページより)

 このように書き記した外国人は、ヴェルナーただ一人ではない。それどころか、当時来日した欧米人のほとんどが、これに類する言葉を残しているのである。

 そう、当時の日本人の識字率は、比較的高いどころか、「世界のほかのどこの国」より高かった。武士階級はもちろん、それ以外の庶民も、ほとんどが字を読み、書くことができたのである。同時代の欧米諸国において、労働者階級に属する人々の大半が文盲だったことを考えると、これは驚くべき事実である。

 江戸時代における庶民の高い識字率をもたらしたのは、民間の教育施設、寺子屋だった。この寺子屋による庶民教育の拡大は、仕事をする際に「字を読み、書くこと」が必要とされるからだったと、説明される。全くその通りだろう。しかし、この説明には、ある観点が欠けている。それは、当時の日本において、字の書かれた出版物が、「庶民に娯楽を提供するものだった」という事実である。文字は、ただ仕事のためだけに存在したのではなかった。

 本や文字を読むことが、最高に楽しい――この感覚に世界で一番初めに辿り着いたのは、日本の庶民だった。そして、これによって、江戸中期以降、豊かな出版文化が花開くのである。


  かわら版と江戸時代の出版事情

 冒頭に掲げたのは、1797(寛政9)年に発行されたベストセラー、『東海道名所図会』の巻之六に描かれた「絵草紙屋(えぞうしや)」である。なお、江戸東京博物館で再現されている絵草紙屋は、この絵を元にしたものだ。

 以前、江戸時代において、かわら版は「絵双紙(えぞうし)」とも呼ばれたことを紹介したが、絵草紙も絵双紙も、意味は同じである。共に、「絵の入った娯楽性のある出版物」を指す語だった。

 絵草紙屋の主力商品は、文字通り絵草紙である。絵草紙と呼ばれた書物は、時代によって多少異なるが、赤本(子供向け)や黒本(青少年向け)、黄表紙(大人向け)、合巻(ごうかん・大人向けの「長編」)などだった。もちろん、全て挿絵のある読み物である。また、お土産として喜ばれた錦絵も、絵草紙屋の大切な売り物だった。

 本は普通に販売されただけではなく、貸本としても流通し、決して裕福ではなかった庶民であっても、「本を読む楽しみ」に浴することができた。

 この絵草紙屋では、もちろん、かわら版は売られていない。繰り返すように、かわら版は違法出版物だったからである。しかし、この絵草紙屋、および出版文化の隆盛は、かわら版の発達と極めて強い関連がある。

 仮に、ここにかわら版を作りたい江戸の人間がいたとする。その彼が集めるべき人材は、次のようになるだろう。

※かわら版の画像(合計4点)は有料版にてご覧いただけます。
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最終更新:2016/11/8(火) 17:00
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