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トランプ大統領誕生でグローバル社会はどう変わるか 橋爪大三郎(社会学者)

2016/11/14(月) 15:00配信

THE PAGE

 トランプ大統領は、なぜ誕生したのか。

 アメリカはもともと信仰を大事にする内向きの国である。独立戦争を戦う必要上やむをえず、連邦政府をつくり、大統領を置いた。議事堂が丘の上にでんとそびえているのにひきかえ、ホワイトハウスはいかにも小さい。大統領に大して期待しないのである。

 冷戦時代、アメリカは覇権国として、自由主義陣営の守護神を務めた。大統領の役割は拡大した。アメリカ国民の安全や福祉に心を配り、核兵器で世界ににらみを利かせた。国益の追求と、世界の秩序維持と、二重の役割を負うことになった。

 大国であるから、アメリカはこの負担に耐えられた。冷戦が終わり、新自由主義の時代になった。新自由主義とは、賃金を切下げ福祉の手を抜き、中産階級を置き去りにして、利潤を確保すること。新興工業国の追い上げと張り合うことである。資本家や富裕層に踏みつけにされた人びとの不満や怒りは、彼らに向かう代わりに、移民に向けられ、ウォール街やワシントンに向けられる。

 アメリカは、核戦力でも通常戦力でも、圧倒的な優位を維持している。世界に米軍を展開し、安全保障システムの要である。これを維持するのに、膨大なコストがかかる。正規軍では適わないから、アメリカに挑むのはゲリラやテロなど非正規の武装勢力。これを取り締まるのは同盟国に任せ、アメリカは手をひきたいと正直のところ思っている。

 人びとはなぜヒラリーよりも、トランプを選んだのか。それは、8年続いた民主党オバマ政権に失望したせいである。オバマ政権のもと、景気はゆるやかに回復したが、人びとが景気を実感できるほどではなかった。むしろオバマケアが、勤労者の負担を増やした。無保険だった数千万人の低所得層の人びとを、医療保険に加入させ、しかも自己負担をわずかにした。保険会社も商売だから、新しいプランに切り換え、勤労者の保険料を値上げする。オバマの医療改革は、国民皆保険に向けたすばらしい制度だが、中産階級の負担増で成り立っている。だからオバマ政権は、さんざんの評判なのだ。加えて、ヒラリー候補はあまりに不人気なうえ、オバマ政権の後継者とみられた。それなら断然、トランプだろうと思った人びとが多かった。

 トランプは、メキシコ国境に壁をつくり不法移民を締め出せ、と述べて、熱狂的な支持者を生み出した。数々の暴言やスキャンダルは、トランプが既成政治家と一線を画している証拠だと、むしろプラスに受け止められた。トランプに眉をひそめた人びとのほうが多かったが、ものともしなかった。

 共和党の主流はトランプとの対応を過った。共和党の元大統領は全員、トランプを支持しない、ヒラリーに投票すると言い切った。それぐらい、トランプとは距離がある。予備選の序盤、トランプが人気を集めると、共和党にプラスになると考えた。第三党から立候補されると、共和党の票が割れて、民主党に有利になってしまうと、共和党内に留めた。ところがさらに勢いを増し、気がついたときには手遅れになっていた。下院や上院の共和党候補は、本選挙でのトランプ落選を見越して、無関係であるかのように選挙を戦った。でも番狂わせでトランプ大統領が誕生したので、大あわてでこれから、抱きつきに行くところだ。トランプはおとなしく、言うことを聞くはずがない。そのぶん、アメリカの政策は確実に変化する。

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最終更新:2016/11/15(火) 15:36
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