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再燃する東芝粉飾事件 証取監視委の本気

ニュースソクラ 2016/11/29(火) 12:00配信

退任まぢか 検察出身・佐渡監視委員長の執念

 検察庁の立件見送りでいったん収束したとみられていた、東芝の粉飾決算事件が再燃しそうだ。

 今夏以降、証券取引等監視委員会が東京地検特捜部の判断に異を唱え続け、刑事告発する姿勢を強めているためだ。戦後経営史を画す重大事件に改めて火がつこうとしている。

 東京地検が何度も「起訴はできません」とはねつけたのに対し、証券監視委は、繰り返し、告発の受理を求めてきた。12月12日に退任する予定の佐渡賢一証券監視委委員長の「刑事告発できなければ(市場行政に)禍根を残す」との強い意志が揺るがなかったからだ。

 粘る証券監視委は、いま東芝の粉飾決算に関し西田厚聰、佐々木則夫、田中久雄の歴代3社長への参考人聴取を続けている。すでに各自複数回の聴取が実施されたが、なお細部にわたってのやり取りが続いている模様。検察の不起訴方針に反して、徹底的な捜査を続けるという異例の展開になっている。

 証券監視委が強制調査を行い、起訴して公判で罪を問うべきだと考えれば、検察に告発する。証券監視委と検察は対等のように見えるかもしれない。しかし、実際は、検察が圧倒的な力を持ち、事件として取り上げるべきかを判断してきた。

 それが起訴権(公訴権)を日本で唯一持つ検察庁の強みだ。証券監視委だけでなく、警察、国税庁、公正取引委員会など捜査権や調査権を持つ役所は、最後のところで検察に“お伺い”を立てなければならなかった。

 証券監視委が粘る理由のひとつが、東芝の粉飾の手口が明確で、あいまいさが薄いことだ。問題となったのは、バイセル(バイ=買い、セル=売り)取引である。東芝は、台湾のコンパル社などパソコンの製造受託メーカーへの外部委託の過程で、高値売却して利益を確保。それを、毎期、繰り返してきた。

 粉飾がはっきりしていて、3人の元社長が自ら主導していて悪質だとして、証券監視委は夏前には刑事告発する考えを固めた。

 しかし、検察は、売上高6兆円の東芝にとって累計粉飾額が2000億円のバイセル取引はそれほど悪質ではないし、過去最高の73億円の課徴金も納付していると考えた。そのため、7月8日までに、「刑事責任に問うことは困難」とする見解を証券監視委に伝えていた。

普通なら、ここで諦めるのがこれまでの常識だ。

 起訴に向けて「検察協議会」を開き、検察と監視委が“擦り合せ”を行うのが建前。だが、事前に「起訴できない」と伝えられれば、黙って引き下がるしかなかった。

 しかし、今回、佐渡委員長は異例の粘り腰をみせる。「(検察が告発を)受理せざるえなくなるまで調査(捜査)を続けろ!」と指示した。現場も踏ん張りをみせ、3元社長が主導している証拠の資料や会議の録音データを膨大な資料のなかから見つけ出した。十分な証拠はそろった「間違いない」ということで、3元社長の聴取に踏み切った。

 今後はどう推移するのか。捜査の進展次第では検察側が告発を受理する可能性もゼロではないが、いまのところ頑なに拒否すると見られている。

 証券監視委は、慣例に反してもむりやり告発状を受け取らせ、検察を捜査に追い込もうとしている。佐渡委員長の覚悟は固く、後任が逃げようがない形で引き継ごうとしているようだ。

 いまの情勢では、検察は告発を受理させられても、形式的な捜査だけで不起訴を決めかねない。その場合は、市民団体などが検察審査会の開催を求め、手続きを経て強制起訴にたどり着く可能性も高い。

 いずれにしても、収束しかけた東芝事件を生き返らせようとしているのは佐渡氏の執念とそれに従う証券監視委の現場だ。東芝事件は再び、多くの司法関係者やメディアに取りあげられるようになるだろう。

 改めて粉飾事件としての東芝事件は再燃し、超大手企業においても決算操作が相変わらず横行している実態が抉り出される。東芝粉飾事件の再燃は、単に当時の経営陣の責任追及にとどまらない影響を、企業社会に与えるだろう。

 ここまで佐渡委員長が頑張り、現場を叱咤激励しているのはなぜか。「東芝粉飾決算を見逃せば、日本の企業社会は粉飾天国とみなされ、国際的な信用失墜につながる」という「市場の番人」としての使命感だろう。

 だが、それに加え、12月12日に退任を控え、3期9年の委員長職に終止符を打つことになっているだけに、司法機関のあり方を問うという「最後の御奉公」をしたいという思いがあるのだろう。

 2010年の大阪地検特捜部の証拠改ざん事件を機に、検察は起訴に慎重になり、特捜部が独自捜査案件を手がけることはほとんどなくなった。そればかりか、警察など他の捜査・調査機関が持ち込む案件についても“難癖”をつけて受理しない。

 いまの検察の縮み思考のおかげで、証券監視委だけでなく、警察も国税庁も公取委も不満や苛立ちをつのらせている。強制捜査権を持つ機関のトップのなかで、福岡高検検事長まで務めた検察出身者は佐渡氏だけだ。

 風穴は俺が開ける――。

 それが、古巣の検察と戦い、告発受理に向けて、証拠補強のために、東芝3元社長の聴取に踏み切った佐渡氏の思いなのである。

伊藤 博敏 (ジャーナリスト)

最終更新:2016/11/29(火) 12:00

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