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福島を訪れたノーベル賞作家が問う 想像を超えるできごとを語る「言葉」はどこにある?

2016/12/4(日) 9:24配信

BuzzFeed Japan

スベトラーナ・アレクシエービッチ、彼女は小さな声を拾いあつめた。

言葉を失うことがある。例えば、東日本大震災の被災地で、原発事故で人が消えた街でーー。何をどう書いても、目の前で起きていること、人が経験したことを、伝えられているような気がせず、言葉だけが浮いていく。【石戸諭 / BuzzFeed Japan】

悲惨なできごとを伝える時、しばしば私たちは公式発表された数字に頼る。歴史の教科書も、まずは客観的な数字から始まる。

津波により何万人が亡くなった、原発事故では避難者が何人いた。だから悲惨なのだ、と印象づけられるように。ひとりの死や喪失感を数字に換えることで、こぼれ落ちる何かがあるにもかかわらず。

11月に来日したスベトラーナ・アレクシエービッチは、「数字」で語られる歴史に抗ってきた。2015年にノーベル文学賞を受賞。旧ソ連に生まれた、ベラルーシの作家だ。戦争、チェルノブイリ、ソ連崩壊……。歴史に残るできごとをテーマに選び、ノンフィクション作品を発表してきた。

手法は一貫している。人々のあいだで語られている言葉を探し、その声を聴く。当事者の小さな声を記録し、作家の声や評価を交えない聴き書きを綴る。

チェルノブイリで人々はなにを考えたのか?

代表作「チェルノブイリの祈り」はこんな声から始まる。それは「孤独な人間の声」と題されている。

リュドミーラ・イグナチェンコ。消防士、故ワシーリイ・イグナチェンコの妻。

「なにをお話すればいいのかわかりません。死について、それとも愛について?それとも、これは同じことなんでしょうか。なんについてでしょう?」

チェルノブイリ原発事故で被曝した夫を見舞う妻の独白は続く。

「会話の断片が記憶に残っています。だれかが忠告してくれた。『忘れないでください。あなたの目の前にいるのはご主人でも愛する人でもありません。高濃度に汚染された放射性物体なんですよ。あなた、自殺志願者じゃないんでしょ!冷静におなりなさい!』。私は気がふれたように『彼を愛しているの、愛しているの』とくりかえすばかり」

夫は間もなく、死を迎えた。

「私たちが体験したことや、死については、人々は耳を傾けるのをいやがる。恐ろしいことについては。でも……、私があなたにお話したのは愛について。私がどんなに愛していたか、お話ししたんです」

サマショール(強制避難後、法令を破り、立ち入り禁止区域内にある自分たちの家に自主的に帰還した人たち)、ジナイーダ・エフドキモブナ・コワレンカの声。

「住んでいるのは私とネコだけ。(中略)さびしくなると、ちょっと泣きます。墓地に行くんですよ。(中略)みんなのそばにちょっと腰をおろして、ちょっとため息をつくんです。この世にいる人間とも、いない人間ともおしゃべりはできるよ。ひとりでいるとき、悲しいとき、とても悲しいときには、どちらの声も聞こえるんですよ」

作家は、チェルノブイリ原発事故について、数字に頼るのでもなく、大きな視点で語るのでもなく、死者とともに生きる人、土地で暮らす人たちの声に耳を澄ます。

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最終更新:2016/12/4(日) 9:41
BuzzFeed Japan