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認知症の介護をラクにする「慣れ」という処方箋

2016/12/31(土) 12:10配信

THE PAGE

 認知症介護を始めるまで、認知症に対するイメージは最悪でした。徘徊で行方不明になる、介護に疲弊してしまった家族による殺人事件、介護うつによる自殺といったネガティブな情報……。当時、認知症に全く興味のなかったわたしの知識は、センセーショナルなニュース見出しだけで構成されていました。

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 認知症介護5年目に入った現在は、以前のイメージとはだいぶ違います。10分前にリンゴを食べたばかりなのに、またリンゴをむき始める母の後ろ姿を見ながら、「きっと、息子に食べさせたいという、親としての純粋な気持ちなのだろう」と微笑ましく思えるのは、認知症ならではだと思います。前日にケンカをしても、次の日には東京へ帰る息子を笑顔で見送ることができるのも、認知症のおかげです。このように忘れることが、実は幸せな瞬間へつながるということに気づきました。

 祖母と母の認知症の症状と向き合って分かったこと、それは「慣れ」という処方箋を誰もが持っているということでした。

認知症の母のパンツを洗うということ

 わが家にある、25年前の全自動洗濯機。衣服を洗うと、なぜか糸くずのようなものが付着するようになりました。とうとう寿命が来たかと思っていたのですが、洗濯機のフィルターを見ると、糸くずではなく、「紙のかたまり」をキャッチしていました。

 「なぜ、紙のかたまりが洗濯機の中に?」

 そのかたまりの正体は、トイレットペーパーでした。それでも、なぜ洗濯機の中にトイレットペーパーが入っているのか、さっぱり分かりませんでした。理由を探るため、洗濯物を1枚1枚チェックすることにしました。すると、尿で濡れたトイレットペーパーが、母のパンツの中から出てきました。就寝時の尿パッド代わりに、使用していたのです。

 トイレに流すつもりが、忘れてしまった結果の大惨事でした。すべての洗濯物に付着した紙をシャワーで洗い流したあと、もう一度洗濯をやり直します。次回の洗濯のために洗濯槽の掃除も必要で、2時間以上もかかります。

 「これからは母のパンツを毎日洗うのか……」 「認知症だから、トイレットペーパーを入れちゃだめといっても、覚えられないだろうな」

 予想どおり何度も何度も、紙が洗濯機の中をくるくると舞いました。認知症の母を責めることはマイナスで、記憶は残らなくともイヤな感情だけが残ると言われています。繰り返される2時間の洗濯に、最初はイヤな気持ちになったのですが、次第にどうしたらいいかと工夫するようになりました。イヤな思いのまま2時間洗濯をせず、この話をネタに文章を書こう、洗濯機に注意表示をしよう、尿パッドを使ってもらうようにしようなど、前向きに考えるようにしたのです。

 結局、尿パッドを数カ月かけて使ってもらうことに成功しました。また、注意表示することで、紙が洗濯機を舞う回数は激減しました。今度は尿パッドを洗濯してしまうこともあったのですが、回数を重ねたことで慣れてしまい、自然と対処ができるようになりました。

 亡くなった祖母の晩年は温厚でしたが、認知症という病気がそうさせるのか、突然キレることもありました。最初は驚いて固まっていたのですが、時間を置くと穏やかになることが分かり、その後はキレても驚かず対応できるようになりました。これも「慣れ」のおかげだと思っています。

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最終更新:2016/12/31(土) 12:10
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