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AIDSで死ぬということ。そこから生き延びるということ

1/1(日) 14:33配信

BuzzFeed Japan

20年前、革命的な新薬がHIV/AIDS治療の転換点となり、死の淵から生還した人たちがいる。 第二の人生を生きるとはどういうことなのか。3人に聞いた。全3章の第1章。
【Patrick Strudwick / BuzzFeed Japan News】

【写真】80年代。アメリカのエイズ危機をとらえた26枚

エドウィン・J・バーナードは、イギリス海峡を見渡す建物の4階、太陽の光が差し込む小さな屋根裏部屋に暮らしている。窓を開けるとカモメの声が聞こえ、海風が吹き込む。窓辺には、1枚の小さな写真が飾られている。1995年に撮影された写真で、バーナードが男性の体に腕を回している。男性の名前はクレイグ。もうこの世にいない。

バーナードもクレイグと同じ運命をたどるはずだった。長く生きられないことはわかっていたし、そう宣告されていた。しかし、それから21年。バーナードは椅子に座り、両手の指を組み、早口で話す。ときに思い出したくない記憶から目をそらし、ときに記憶の世界に入り込み、21年がたった今も、心の奥深くにあるものを理解しようと努力している。バーナードは誰も打ち勝ったことのない戦いに勝利したのだ。

バーナードは偶然の幸運によって救われた。しかし、死の間際にあったバーナードを救ったのは医学の革命だけではない。何が彼を救ったのかを理解するには長い会話が必要だった。バーナードの最後の言葉が、いちばん最初の言葉につながった。頭上の収納スペースに、一度も開けていない箱があると、バーナードは言った。開けていないというより、開けることができないのだ。箱の中には、バーナードの命を救ったもう1つのものが入っている。しかしバーナードは、その重さに耐えることができない。

バーナードは窓辺の写真を眺めながら、「1995年の自分を覚えているかどうかさえわからない」と話した。「私は、自分自身や人生の目的をどのように感じていたのだろう。20年以上がたった今、彼は誰だろうと思う自分がいる」

バーナードは再び前を見る。窓の外にある現在、そして1年後を。かつてばかげているとしか思えなかった未来を見つめている。

20年前の1996年夏。一筋の光が差し込んだ。15年に渡り、さまざまなコミュニティー、家族、大陸で多くの命を奪い続けたAIDSについて、カナダ、バンクーバーで開催された第11回国際AIDS会議で、驚くべきデータが提示されたのだ。

プロテアーゼ阻害剤と呼ばれる新しい抗レトロウイルス薬に、驚異的な力があることが発見された。複数の薬を組み合わせたいわゆる併用療法(HAART療法=高活性抗レトロウイルス療法)でHIVの生活環を阻害し、ウイルスを無力化できることがわかったのだ。

HIVを根絶することはできないが、ウイルスを抑制することで、この世で最も残酷な病気のまん延を抑制し、その姿を変えることができる。これで人々は救われる。そして、実際に救われた。

しかし、それほど単純な話ではなかった。

これから紹介するのは、早過ぎる死を迎える覚悟を決めながら、その死が訪れなかった3人の物語だ。3人はそれぞれの大陸で病床から立ち上がり、人生の終わりが第2の人生の始まりになった。新薬が導入されたあらゆる場所で、多くの人がこのような体験をした。HIVとAIDSの死亡率は激減した。第2の人生が突然訪れるこうした現象は、死の4日後、イエスによってよみがえらされた聖ラザロにちなんで「ラザロ・エフェクト」と呼ばれるようになった。

しかしそれは、ちょうど聖ラザロの物語と同様に、単純な話ではなかった。聖ラザロが蘇生した奇跡は、奇跡を起こしたイエスを十字架に張り付け、救われた聖ラザロも殺すという計画を加速させることになった。

死を迎える間近で得た第二の人生は、すべてを変えてしまうのだ。

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最終更新:1/1(日) 14:33
BuzzFeed Japan