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家庭教師は子どもをダメにする? 英国の親の決断

1/28(土) 10:00配信

The Telegraph

【記者:Annabel Abbs 】
 あるパーティーでわが子の試験勉強の話題になった。英ロンドン(London)の金融街で働いているある弁護士は、8歳の娘を市内北部の学費の高い私立小学校に通わせているが、クラスの子どもたちの大半が家庭教師をつけていると説明し、自分としては嫌だが、娘にも家庭教師をつけるつもりだと話した。そして「家庭教師がいないのはうちの子だけになってしまう。娘の可能性を制限したくはない」と続けた。

 この会話にロンドンの名門私立校の校長が割って入り、「この流れを止めることはできない」「家庭教師業界は親の不安を食い物にして肥え太っている」と述べ、仕方ないといった様子で同意した。

 ようこそ、英国の中流層の親たちを悩ませる新たな「罪悪感の世界」へ──。子育ての不安と言えば、働く母親が抱く罪悪感やペットを飼っていない罪悪感、離婚したことに対する罪悪感などいくつもあるが、受験シーズンが近づいてくると、わが子に家庭教師をつけていない罪悪感に親たちは大いにさいなまれる。

 今や試験直前だけでなく、日常的に家庭教師をつけることが一般化した。金銭的に裕福な環境では、わが子にトップクラスの成績を収めてもらうために家庭教師は不可欠な存在と考える節すらある。

 私の10代の子どもたちによると、友人の多くは家庭教師の指導を受けているが、誰もそれについて語らないという。語ったとしても、親たちは大事な家庭教師を横取りされないように必死で守ろうとするというのだ。他の家庭で雇われている家庭教師の電話番号を聞き出そうなど、夢にも考えない方がいい。

 私の娘も家庭教師をつけて以来、数学の成績は向上した。しかし、その一方で自尊心を大きく傷つけてしまうことにもなった。後から分かったのだが、家庭教師をつけるということは娘に対し、「ダメな子だ」と暗に言っているようなものだったからだ。

 家庭教師をつけたために娘の宿題は増え、プレッシャーも大きくなり、自ずと遊び時間は減った。冷静に考えてみれば、家庭教師は子どもから楽しい時間を奪ってしまう存在なのだ。

 もう一つ忘れてならないのは、家庭教師は安くないということ。1時間当たり30~40ポンド(約4300~5700円)を請求される。実際、今では多くの学校教師が放課後や休日に家庭教師として働いて副収入を得ており、学校によっては、補習授業を行ってその分の授業料を請求しているところもある。

 以前はそれぞれの家庭で家庭教師を雇うことに否定的だったにもかかわらず、最近では家庭教師の活用を奨励する学校も増えてきた。成績の悪い生徒に家庭教師をつければ、教師の仕事は楽になり、その子の試験の結果だけではなく学校のランキングも上がるからだ。

 私の息子は今、英国で小学校修了時に受ける試験「11プラス」(日本の中学校受験に相当)を控えている。そして同級生の約75%は家庭教師の指導を受けているという。私は息子に家庭教師をつけることにずっと反対してきたが、その一方で、わが子にひどい仕打ちをしているのではないかと罪悪感も抱いてきた。しかし、10代の子の心の問題について知れば知るほど、罪悪感に屈することはやめようと思えるようになった。

 子どものメンタルヘルスの改善に取り組む慈善団体「ヤング・マインズ(Young Minds)」によると、英国では現在、5~16歳の子どものうち85万人が心の問題に悩まされているという。他方で英マンチェスター大学(University of Manchester)の研究者らも昨年、英国の20歳未満の若者による自殺の原因の1位は学校のストレスであるとの調査結果を発表している。

「家庭教師をつけるのは逆効果だ」と、ロンドンの名門校の生徒を数多く診ている精神分析医のカティンゴ・ヤヌリス(Katingo Giannoulis)氏は言う。「子どもたちは家庭教師に頼るようになり、自分で考えたり問題を解こうとしたりしなくなる。家庭教師は支えとなるが、子どもたちの自信や自立心は損ねられる」【翻訳編集】AFPBB News

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最終更新:1/28(土) 10:00
The Telegraph