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Album Review:ポップスの礎を再認識させる、ANATAKIKOUの最新作であり新たなスタート

Billboard Japan 2/2(木) 18:15配信

 2001年大阪にて3名で結成するも、オリジナルメンバー2人が脱退し松浦正樹のソロユニットとなっていたANATAKIKOUが、5年の歳月を経てリリースした6枚目となるアルバム『3.2.1.〇』(さん・にー・いち・まる)。松浦正樹が抱える行き先のなかった言葉たちが、出会うべき音に乗って向かう場所を決めた、本作はまるでそんなアルバムだ。タイトルに込められたのは、1人になってもそこから○(=正解)に向かおうと決めたすべてを背負う覚悟、あるいは孤独を吹っ切った清々しさだろうか。

 現在のANATAKIKOUは、松浦が主宰となりライブによって編成を変えながら活動を行う劇団スタイル。本作ではベースとドラムが全体的にリズミカルに、その上でギターとピアノのセンチメンタルなメロディが交錯することにより楽曲のポップセンスが際立ち、さらに新たなグルーヴが生まれている。ANATAKIKOUの楽曲には、歌謡曲を思わせる懐かしさもあり、かつ音の端にはいつも影が揺れているような印象を受けるのだが、悲恋や葛藤なんかでも、そこに重苦しい暗さはない。そんな軽妙な湿っぽさを心地よく感じさせるあたりがポップスの持つべき妙であり、このアルバムはそれを改めて提示してくれたように思う。

 そして、一度耳にくっつくとなかなか離れない歌詞にまんまとハマってしまう。「いついつであう」の〈僕のせいだといいな 君のせいでもいいから〉という1フレーズは、二人の別れ方が綺麗事でも捨て台詞でもなくて何とも言えない優しい終わりを感じさせる。アルバムの締めでもある「MY DEAR」は、〈劣等感で潰れそう〉なんてこんな塞ぎ込んだ歌詞から始まるのに、最後まで聴くと「いいことあるかもな」って何だか前向きな気持ちになった。メランコリックな感情を、独特の言葉選びと耳にこびりついてしまう奇妙な中毒性を持ったメロディでポップスに変えてしまうところは、ANATAKIKOUが持っている魔法だ。まどろっこしく宙ぶらりんな言葉たちが、ロマンティックな風景や何気ない日常の中に入り込むといつの間にか絶妙なリアリティを生み出している。

 5年間待っていたファンにとっては、時間が空いたことを忘れるほど自然に再会を楽しむことができるし、本作で初めて聴く人もここから知れば知るほど引き込まれていく事間違いなしだ。ただ最後に、ジャケットのマレー熊がどうしても気になってしまう。こわ…い?いや、よく見ると可愛い…?ほら、どんどん見てしまう。その中毒性、ANATAKIKOUとよく似ている。

Text:神人 未稀


◎リリース情報 『3.2.1.〇』
NOW ON SALE
HIKE-0001 2,500円(tax out)

収録曲:
1.november stop
2.いちいちみてみて
3.いついつであう
4.恋はマゼンタ
5.うたになあれ(feat.YeYe)
6.今日も明日も(2016)
7.救世主とカンツォーネ
8.絵に描いたモチーフ
9.万年筆とガールフレンド
10.MY DEAR

最終更新:2/2(木) 18:15

Billboard Japan