ここから本文です

イスラム教からキリスト教に改宗する難民が増加、レバノン

2017/2/4(土) 9:00配信

The Telegraph

【記者:Josie Ensor】
 シリア出身のイブラヒム・アリ(Ibrahim Ali)さん(57)は、キリスト教の教会で初めて参列した礼拝のことをよく覚えている。あのろうそくのにおい、安い合板の信徒席、当時まるでなじみのなかった讃美歌――。

 アリさんはかつてイスラム教徒だった。内戦を逃れて隣国レバノンに避難した時には、キリスト教に改宗することになるなど夢にも思っていなかった。

 アリさんだけではない。レバノンに身を寄せているイスラム教徒のうち、昨年だけで数百人がキリスト教の洗礼を受けた。

 レバノンは自国の人口の約4分の1に当たる150万人以上のシリア難民を受け入れており、6年にわたるシリア内戦の陰で、その境遇はますます悲惨さを増してきている。

 改宗の理由について、キリスト教慈善団体による惜しみない援助の恩恵にあずかるためと言う人もいれば、欧米やカナダなどへの難民申請に有利だからと言う人もいる。中東でキリスト教に改宗すると、イスラム教徒のままでいるよりも迫害対象になる可能性が高いがゆえ、亡命の正当性も高まるという考えだ。

 イスラム教徒が多数派を占め、信教の自由が制限されているシリアでは、キリスト教への改宗はほぼ皆無に等しい。しかしレバノンには相当数のキリスト教徒がいる上、国境上で起こっている難民危機に対応しようと全土に設立され始めた福音派の教会はその数を増やしている。

 アリさんは2011年のシリア内戦勃発後まもなく、アレッポ(Aleppo)郊外からレバノンに逃れた。妻と7人の子どもは自宅に残し、仕送りできるだけの収入が得られればと考えていた。

 街路清掃の職にありつき、会社が用意した簡易宿泊施設で寝泊まりした。銀行口座も家もないため、給料の大半を上司に預けていた。ところが3年たって辞意を告げると、上司は預けていた給料、約110万円相当の支払いを拒否。

 アリさんは、レバノン入りした当初は正規の滞在許可を受けていたものの、その後の規制強化で不法滞在者扱いになっていたため、どうすることもできなかった。アレッポでの戦闘激化で自宅に戻ることもできず、仕方なく物乞いを始めた。

 昨春のある日、アリさんはレバノンの首都ベイルート(Beirut)郊外の貧困地区ブルジュハムード(Bourj Hammoud)のカフェでイラク人のキリスト教徒に出会った。その男性から、近くの教会で難民らに食料を配っていると聞いた。

 翌日アリさんはその聖公会の教会を訪れた。毎週行われている聖書の勉強会に参加するという条件で、寝台と1日2回の温かい食事、さらに毎月いくばくかの給付金がもらえることになった。

 アリさんは、「勉強会の参加者のほとんどがイスラム教徒だった。シリアとイラクからの難民が大半。あんな光景は見たことがなかった、イスラム教徒がイエス(Jesus)の歌を歌っているなんて」と笑った。

 改宗の希望を尋ねられたアリさんは昨年4月、十数人の勉強会の参加者らと共に洗礼を受けた。その際、アラビア語で「メシアのしもべ」を意味するアブドルマシア(Abed al-Massih)という洗礼名を与えられた。

「中東で改宗は一大事だ」というアリさん。「シリアでは、キリスト教徒がイスラム教に改宗することはごくまれにあるが、その逆はあり得ない」

「大勢がそうしているのは、欧州や米国、カナダに行くためだ。私はレバノンにとどまるつもりだが、難民申請に役立てようと洗礼を受けた人が何百人といる。彼らは家族の安全のためなら何だってする」

 アリア・ハジ(Alia al-Haji)さん(29)もその一人だ。彼女は夫と3人の幼い子どもと共に、近くのキリスト教徒地区アシュラフィーエ(Achrafiyeh)の教会に通う。

 ハジさんは、「UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)はキリスト教徒になっても難民申請の役には立たないと言うが、これまでの経験上そうとも言い切れない」と語る。洗礼を受けたらカナダに亡命申請するつもりだという

 中東での改宗は困難や危険と隣り合わせだ。改宗を決断した人々は地元コミュニティーからの追放という憂き目に遭うことが多い。

 アリさんが洗礼を受けた教会のサイード・ディーブ(Said Deeb)司祭の元には、洗礼を施した信者の友人や親族から、「背教」をけしかけたとして殺害脅迫の電話やメッセージが何十件も寄せられたという。

 難民の苦境を利用して改宗を強いているという批判もある。ディーブ司祭は、「たとえ彼らが食べ物や衣服のためにやって来たとしても、神が彼らの心を変えるのを目にしている」「われわれは入信の強要は一切しない。それは彼らの選択でなければならないし、彼らがイエスを受け入れなければならない」と述べた。

 アレッポ郊外の保守的な小村の出身であるアリさんの家族は、アリさんの改宗を知ってその事実の受け入れを拒んだ。

 アリさんは、「彼らにとっての私は死んだ、面目をつぶしたのだからシリアには絶対に戻って来るなと言われた。家族は私の葬式まで出して、皆に私は死んだのだと言いふらした。私がイスラム教を捨てたと言うくらいなら、そう言う方がましだったのだ」と語った。【翻訳編集】AFPBB News

「テレグラフ」とは:
1855年に創刊された「デイリー・テレグラフ」は英国を代表する朝刊紙で、1994年にはそのオンライン版「テレグラフ」を立ち上げました。
「UK Consumer Website of the Year」、「Digital Publisher of the Year」、「National Newspaper of the Year」、「Columnist of the Year」など、多くの受賞歴があります。

最終更新:2017/2/4(土) 9:00
The Telegraph