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元日本代表HCの倉石平氏が“辛口解説”「“2軍”のイラン代表にあの試合ではダメ」

2/21(火) 11:39配信

バスケットボールキング

バスケットボール日本代表として活躍し、引退後は古巣の熊谷組、大和証券、日立(現サンロッカーズ渋谷)、日本代表などでヘッドコーチを歴任。現在は早稲田大学スポーツ科学学術院教授を務める倉石平(くらいし・おさむ)氏に、2月10、11日の日本代表vsイラン代表を総括してもらった。アジア屈指の強豪に1勝1敗とまずまずの結果を残した日本代表に、倉石氏が手厳しい愛のムチを振るう。

インタビュー=安田勇斗
写真=上野公人

――まずは2月10、11日に行われたイラン代表戦について、率直な感想をお願いします。
倉石 2試合とおして言えるのは、あんな試合をやっていていいのか、ということ。北海道に来たイランは中国代表と並ぶアジアトップのチームではないんですよ。“2軍”なんですから。そのイランや中国ですら世界大会ではベスト8に入れるかどうかなわけで、2軍相手にあの試合ではダメですよ。

――かなり厳しいご意見ですが、それでも1試合目は85-74で勝利を収めました。
倉石 日本代表はイランのスタイルをある程度知ってますけど、逆に若手中心のイランは日本とは実質初対戦で、日本のことを全然知らないんです。だから対応できなかっただけで、日本がすごく良かったという印象はないですね。

――では68-73で敗れた2戦目は?
倉石 相手に学習されましたね。的を絞ってきたので、逆に日本が対応できず負けました。完璧にやられましたね。

――「的」とは?
倉石 今回の日本代表は、これまでと大きく違ったんですよ。新しい(ルカ・パヴィチェヴィッチ)ヘッドコーチになって、ピック&ロールを中心としたオフェンスに変えました。今まで日本はボールキープ力がなかったので、ポイントガードとビッグマンのスクリーンをあまり使わなかった。ハンドオフプレーとか、ピックを使うとかはあっても、あそこまで徹底してやってこなかったんです。でもイラン戦では全部ピック&ロールと言ってもいいぐらい、徹底してやってました。ピック&ロール、ピックからポップ、ピックからキックアウト、ピックからオフスクリーン。オフェンスの取っ掛かりがほとんど富樫(勇樹/千葉ジェッツ)から始まってたんです。

――1戦目ではそれが通じたけど、2戦目では通じなくなった、ということですか?
倉石 ディフェンスの仕方を変えてきましたよね。1戦目はその形で日本のボールハンドラーがシュートを打ったり、ドライブをしたり、自由にできてたのが、2戦目は何もできなくなった。シュートもドライブもできない、キックアウトをするにも、相手のローテーションが速くてうまくつなげず、ウイングとコーナーのシュートも入らない。それで点数が取れなくなりました。

――少し話を戻します。「2軍」のイランと評しましたが、実際メッヘラン・ハタミHCは「連れてきたかった選手の40パーセントくらい」と話し、ベストメンバーではないことを強調していました。本来のイランはどんなチームなのでしょうか?
倉石 インサイド中心のオーソドックスなスタイルで、戦い方は今回のチームと同じですけど、もっとサイズが大きくてゴール下はもっと強烈です。例えばNBAでもプレーした(ハメッド)ハダディ(元メンフィス・グリズリーズ)は2メートル20センチ近くあります。彼だけじゃなく全体的に大きいし、少なくともインサイドでは勝負できないですね。それと、ガードにも速くて得点が取れる選手がそろってます。

――イランと中国を「アジアトップ」と表現していました。日本はアジアにおいてどの程度の位置に付けているのでしょうか?
倉石 イランと中国が断トツの“2強”で、大きく差が開いてそこに次ぐのが韓国とフィリピン。日本はその次のグループですけど、その4つを倒すのは相当難しいですよ。トーナメントなどの一発勝負なら韓国やフィリピンとも戦えるかもしれませんけど、今の状態だったら“2強”に勝つ可能性はほとんどないですね。

――今回の試合でピック&ロール以外に、パヴィチェヴィッチHCの狙いやテストしたことなどはどこかに感じましたか?
倉石 ディフェンスはちょっと違った感じがしましたね。今まではアメリカンバスケットのディフェンスでしたけど、今回はユーゴ系のディフェンスを採り入れていた気がします。あくまで見た目でしかわからないですけど、以前日本代表のHCを務めていたジェリコ・パブリセヴィッチさんのスタイルに似ているかなと。

――アメリカとユーゴ系のディフェンスではどう違うのでしょうか?
倉石 アメリカは完璧にシステマチックなんですよ。マンツーマンディフェンスにしても「プレッシャーマンツーマンディフェンスシステム」と言ったりします。一人ひとりがどうプレッシャーを掛けるか、ここにいる時はどの方向に誘導させるか、抜かれたらどうローテーションしてカバーするか、それらすべてがシステム化されてるんです。それに比べてユーゴ系、例えばセルビアやクロアチアなんかは、一人ひとりの感性で守らせる部分が大きい。人によって守る範囲が違うから、それに合わせてシチュエーショントレーニングを繰り返してディフェンスを構築していくんです。

――日本代表はメンバーによって守り方が違ったということでしょうか?
倉石 違っているように見えましたね。ただ機能していたかというとまだまだ。ゴール下でミスマッチを作られて簡単に点を取られてましたから。

――まだ足りない部分、伸ばしていかないといけない部分はあるとして、このイラン戦でポジティブな要素を挙げるならどんなところでしょうか?
倉石 比江島(慎/シーホース三河)と馬場(雄大/筑波大学)には可能性を感じました。それに次ぐのが田中(大貴/アルバルク東京)。メンタリティの部分や、1on1など自分でクリエイトしていく部分ですね。やってやるんだ、という強い気持ちが見えたので。

――逆にもっとやってほしいと思う選手は?
倉石 インサイドはもっとやらないといけないですね。帰化選手のアイラ・ブラウン(サンロッカーズ渋谷)だけでは足りない。竹内公輔(栃木ブレックス)、譲次(アルバルク東京)は経験値があるんだからもっと点を取ってほしいし、もっとリバウンドを取ってほしい。そういう意味では渡邊(雄太/ジョージ・ワシントン大学)や八村(塁/ゴンザガ大学)が出てこないとダメなのかもしれないですね。

――チームとしての収穫はありましたか?
倉石 新しいバスケットにチャレンジしたことですね。各チームでリーグ戦を戦っている中で、選手たちは全く違ったバスケットに柔軟に対応してましたし、練習量が少ないにも関わらず、ある程度の形にはなっていたので。あのスタイルが正解かはまだわからないですけど、方向性は見えてきたかなと。

――日本代表がイランや中国、世界と戦っていくためには何が必要だと思いますか?
倉石 まずは高さ対策と運動能力対策ですね。今回の日本代表は、ほとんどフリースローラインより上でしかプレーしていないんですよ。つまりゴール下を完全に空けている状態だったんです。それがいいか悪いかはまだわからないんですけど、イランはインサイド中心のオフェンスを展開していて、そっちの方が確率の高いシュートを狙えるから安定感があるんです。シュートをミスしてもリバウンドで優位に立てますから。だから日本が、高さで勝てないために同じ形で攻めるなら、攻撃確率を高めるプレーが必要ですね。

――具体的にはどんなオフェンスが有効だと思いますか?
倉石 中が空いてるから、そこに仕掛けてマークに付いている相手選手を付いてこさせる。そうすると外が空く。その繰り返しでスペースを空けて確率の高いシュートを狙っていくしかないですね。

――優秀なシューターを数人、置いたらどうですか?
倉石 結局、打つまでのお膳立てが必要なんですよ。今の形だとそのタイミングが作れないので。1戦目なんかは富樫がドライブして中に突っこんで、いい形で外に出してシュートに持っていけたので、その形を増やしていきたいですね。

――先ほど渡邊選手と八村選手の名前が挙がりましたが、あまり出場機会を得られなかった金丸晃輔(シーホース三河)選手や永吉佑也(川崎ブレイブサンダース)選手などはいかがでしょうか?
倉石 金丸はキャッチ&シューターで自分でクリエイトするタイプではないんですよね。最近調子に波があるのは気になりますし、HCが起用しないってことは信頼を勝ち取れていないということなんだと思います。永吉はサイズ(198センチ)が厳しいですよね。体を張っていいプレーをしてましたけど、できれば3番(スモールフォワード)まで上げて戦わせたいですね。

――その他に日本代表に呼んでほしい選手はいますか?
倉石 うーん……なかなか思いつかないんですよね。

――ここ最近、代表に入っていたメンバーだと川村卓也(横浜ビー・コルセアーズ)選手、辻直人(川崎)選手、満原優樹(SR渋谷)選手などがいます。
倉石 川村は素材としては、代表のエースになれるぐらいだと思います。シューターとしては身長があって、シュートタッチが抜群にいいですから。ただ強烈な個性を持っている分、起用の仕方は難しいと思いますよ。辻もいいシューターですけど、金丸と一緒でキャッチ&シューターなんですよね。富樫みたいな速さがあればもっと活躍できるんですけど。今のナショナルチームは1、2本打って、自分で調子をコントロールして力を発揮できないと厳しい。金丸も辻も所属チームではスターターで、彼らを中心とした戦い方で何本も打てますけど、代表では短時間で結果を出せるメンタルと、自分でシュートまで持っていくスキルやスピードがないとダメかなと。満原は高さとパワーがあっていろいろなことができますけど、絶対的な武器がない。シュートもリバウンドもディフェンスも一番ではないので、どこで起用すべきか難しいところですね。

――イラン戦だけを切り取っても、2019年FIBAバスケットボール・ワールドカップ、2020年東京オリンピックへの道のりは険しいように感じます。時間があまりない中で、日本代表はどう戦っていくべきだと思いますか?
倉石 やりたいことを全部やろうとしても無理なので、できるもの、できないものをはっきりさせるべきですね。で、できるものを最大限増大させていく。そのためには、今代表に選ばれているプレーヤー、選ばれそうなプレーヤー、数年後に選ばれるだろう若手プレーヤーが、同じところに向かって走らないといけない。国としての真剣勝負なんだから個々のエゴは捨てて、全員が同じところを見て進んでいかないとW杯にも五輪にも出られないですよ。

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