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物価水準の財政理論の入門(補論)

2/22(水) 10:40配信

ZUU online

シンカー:物価水準の財政理論ではどれほどの財政拡大や緊縮財政が異常なのかという判断基準は明確ではないので、その基準となるネットの資金需要について解説する。

前編では、現在注目されている物価水準の財政理論(FTPL)は、政府の財政運営が、リカーディアン型(実質ベースでの予算制約式の成立)から非リカーディアン型(実質ベースでは予算制約式は成立しないが、名目ベースは会計上必ず成立し、そのために物価で調整される)に変わることにより、物価に影響を与えるという考え方であることを解説した。

中編では、FTPLは、中央銀行の通貨発行益の影響を入れることで、非リカーディアン型の財政運営でも政府の予算制約式が成り立ち、同時に財政拡大が物価に影響があると示していることを解説した。

後編では、物価を動かすには金融緩和だけではなく財政拡大が必要であるというシムズ教授のFTPLを応用した主張を通し、FTPLは、財政拡大が短期的な影響だけで中長期的には債務残高を増加させるだけの効果しかないという一般的な考えと大きく異なることを解説した。

FTPLは物価動向を説明するツールとしては、鈍い刀であると考えられ、1%単位の細かな物価の変動を説明することは困難であろう。

しかし、景気過熱を考慮しない異常な財政拡大が、いずれ異常な物価上昇をもたらすことは説明できる。

一方、逆にも応用でき、過剰な政府債務残高への警戒感による異常な財政緊縮が、デフレの原因になってしまうということも説明できる。

では、どれほどの財政拡大や緊縮財政が異常なのかという判断基準は明確ではない。

景気動向が弱ければ財政収支の赤字は大きくあるべきだし、景気動向が強ければ財政収支は黒字になるべきだ。

では、どのように景気中立的な財政収支が計算できるのであろうか?

日本の内需低迷・デフレの長期化は、恒常的なプラスとなっている企業貯蓄率(デレバレッジ)に対して、マイナス(赤字)である財政収支が相殺している程度(成長を強く追及せず、安定だけを目指す政策)であり、企業貯蓄率と財政収支の和(ネットの国内資金需要、トータルレバレッジ、マイナスが拡大)がゼロと、国内の資金需要・総需要を生み出す力、資金が循環し貨幣経済が拡大する力が喪失していたことが原因である。

ネットの資金需要が喪失していれば、金融緩和でマネタイズすべきものがなく、金融政策のみで物価を動かすことができない。

物価を上昇させるためには、金融緩和でマネタイズするネットの資金需要を財政拡大でつくり出すことが重要であり、FTPLの考え方と親和性がある。

そして、ネットの国内資金需要のターゲットを決めれば、企業貯蓄率の水準(景気動向の強さ)に対する、景気中立的な財政収支の水準も決められる。

ネットの資金需要がGDP対比5%程度あるのが、2%程度の安定的な物価上昇と整合的であるとみられる。

これまでのようにネットの資金需要が消滅してしまっていれば、財政緊縮が異常であり、デフレになってしまう。

消費増税など財政緊縮をより進め、ネットの資金需要が消滅ではなく破壊されるほどになると、恐慌となり、デフレはスパイラル的になるだろう。

一方、企業の資金需要が強く、財政も拡大気味で、ネットの資金需要がGDP対比10%程度を超えると、バブル的な景気拡大となり、インフレが強く進行していくことになろう。

アベノミクス前後で、消滅していたネットの資金需要が、企業貯蓄率の低下と、震災復興と景気対策による財政緩和により、復活したのが、日本のデフレ脱却への動きにつながったとみられる。

しかし、企業貯蓄率がまだプラスである中で、2014年度の消費税率引き上げなど、財政緊縮が異常となり、現在のところ、再びネットの資金需要が消滅し、デフレ完全脱却の動きが停滞してしまったと考えられる。

FTPLの考え方の応用として、ネットの資金需要を見ながら財政運営を行うことは、デフレ完全脱却のために重要なことである。

ネットの資金需要が消滅してしまっている現在、財政緊縮は異常であると言え、財政拡大に転じ、ネットの資金需要を復活・拡大させる必要があろう。

ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部
会田卓司

最終更新:2/22(水) 10:40
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