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菊地成孔「大阪独特の猥雑な夜に期待している」

2/22(水) 18:02配信

Lmaga.jp

「和装のママとかを脇に置いている社長さんとかにも来て欲しいんですけどね(笑)」(菊地)

サックス奏者、著作家、プロデューサーとして、ジャズを軸としつつもそこだけにはとどまらない多彩な活動を繰り広げ続ける菊地成孔。彼が率いる複数のグループのなかでも、ハープなども含む特異な11人編成でハイブリッドかつコンテンポラリーなラテン音楽を奏でるペペ・トルメント・アスカラールが、結成から12年目にして初めて大阪公演(2月25日・ビルボードライブ大阪)をおこなう。そのライブを前に、これまでプライベートでも頻繁に訪れてきたという大阪に対する想い、東京とは異なるドープネスを感じさせる街での初ライブに期待するポイントなどから、近年とこの先の活動についても幅広く語ってもらった。

取材・文/吉本秀純

──ぺぺ・トルメント・アスカラールは、菊地さんが率いるいくつかのグループの中でも編成的にも音楽的にもとりわけ特異な楽団と思いますが、まずはその特徴から改めて聞かせてもらえますか?

「一番簡単に言っちゃうと、ラテン音楽の11人編成のオルケスタですよね。かと言って、サルサやタンゴやサンバといった(特定の)ジャンル・ミュージックではなくて、漠然とラテン音楽がぐちゃぐちゃに入り混じっている『ポスト・ラテン』というか。もう一回ラテン全般を混ぜ合わせたアコースティックのオルケスタで、聴き心地は今は失われて久しいと言われる『エロティーク』だと。ただ、単にエロいだけだとポルノになるので、そこに現代音楽の響きとか、アフリカ音楽などのコンテンポラリーなワールド・ミュージックを好きな人が反応するリズムの感じや、あとはニュー・チャプターなジャズのような凝った展開などを加えて、音楽的なある種の難解さと夜でエロい雰囲気(笑)というシンプルなものをちゃんと混ぜた音楽ですね」

──なるほど。

「今はなんかシンプルなものがイイって決められちゃっていますけど、実は難しいものも気持ちイイというか、意味のわかんない映画が面白かったりするじゃないですか? 今は不景気なので、わかりやすくて簡単で、自分の燃えるポイントに当たってくれないとお金を払う気がしないというムードが強くて、なんかよくわからないけどイイ、という快楽が減ってきているし、セックス自体も減ってきていると言われて久しいですよね。音楽のイメージとして性愛を感じさせるものは昔にたくさんありましたし、今も性愛に純化させればポール・ダンサーが選ぶハウスやR&Bみたいなのもありますけど、ウチらは性愛の側面と難しい側面がくっついちゃっているので(笑)。その食い合わせの悪さがイヤな人にはイヤなんだろうけど、混ぜモノが好きな方には二度おいしくてイイんじゃないかなと」

──菊地さんのソロ2作目『南米のエリザベス・テーラー』(2005年)を契機に結成され、その後に4枚のアルバムを発表してきたぺぺ・トルメント・アスカラールですが、サウンドのタッチは1作ごとにかなり違っていて、12年の間での変遷も結構激しいと思うのですが。

「そうなんですよ。ぺぺ・トルメント・アスカラールで一貫しているのは楽器の編成とタキシード着用ということだけで(笑)、音楽的にはアルバムごとに結構ダイナミックに変わっているんですよね。それでも、ワールド~ラテンのミクスチャー+現代音楽という意味では大きく変わってはいなくて、モントゥーノのあるサルサ寄りになったり、バンドネオンが大きくフィーチャーされるタンゴ寄りになったりというバランスの変化があるだけで、基本的には4ビートとかはやらないですし」

──今回は初の大阪公演となりますが、現在進行形のぺぺ・トルメント・アスカラールはまた新しい境地に達しているのでしょうか?

「ただ、今回の大阪公演に関しては初めてということもありますし、70分セットの定番メニューをまずお出しして様子を見てみようという感じですね。それでどういう方が来て、どのくらい喜んでお帰りになるのかを見たいし、大阪は個人的に好きな街なので、大阪でやれること自体を非常にうれしく思っています。僕は新幹線のチケットを買って旅行に行こうとなったときに、大阪しか行ったことがないんですよ。鉄板焼きを食べに来たり、日本で阪急(百貨店)さんだけが扱っていた自分が使っているティエリー・ミュグレーのエンジェルという香水を買うためだけにも大阪に来ていました(笑)」

──そうなんですか(笑)。

「なので、大阪独特の夜の感じにはすごく期待しているんです。東京だとどうしても、コレは別にディスでも何でもないですけど、どんどんとオシャレな人が来ちゃって、ぺぺ・トルメント・アスカラールでやっていても猥雑感が減ってエレガントになってしまうんですよ。大阪がエレガントじゃない、ということではなくて、ホントに理想的なのはプエルトリコとか少し前までのハバナみたいに、すごく猥雑で凶悪な感じがするんだけどエレガントだという雰囲気で。それをススキノに求めても難しいし」

──いい意味で大阪らしい雰囲気と混ざり合うと、理想的な化学変化が起きそうですね。

「東京はオシャレな人の歯止めが利かなくなるところがあるので(笑)。個人的には、和装のママとかを脇に置いている社長さんとかにも来て欲しいんですけどね(笑)」

──大阪も、最近はそういう豪気な感じでキャラの濃い方は減ってきましたけど(笑)。

「日本全体から減っているんでしょうけど、シンガポールやマレーシア、ソウルとかに行くとまだ(そういう雰囲気が)あるから。日本が完全にソフィスティケイトされ切って、コンプリート・クール・ジャパンになったら、もう国外に出るしかないなと思っているんですけど。まだ、バンコクとかに行けば社長さんみたいな人もいるので(笑)。べつに大阪を東南アジア視しているワケでもないんですが。でも、大阪のビルボードライブも、東京と比べると周りにまだギラギラ感が残っているところも好きだし、楽しみにしています。それにプラスして、ワールド・ミュージックのコアな方やアフロ・ビートなどに取り組んでいる人も東京より大阪の方が多いし、そういう人にも楽しんでもらえればと期待しています。ほかでも、シカゴのジューク/フットワークのDJも大阪の方が多いし、本当にドープなものは大阪の人たちの方が斜に構えずにちゃんと楽しむんだという感じがあるので。その大阪の方々のドープな感じと、相互的にヴァイブスを交換したい気分ではあります」

──ドープな聴き手が、ぺぺ・トルメント・アスカラールの抑制されたコアな側面を引き出すライブになるとベストですね。

「今回の大阪がひとつの試金石になるというか、この後に博多まで伸びていくかどうかがココで決まるところもあるので。以前に京都でやったときには、ものすごく知的で現代音楽的なバンドだと思われているような感じが強くて、聴き手がすごく知的に聴いているから、こっちもそういう態度になってしまったところがあったんですよ。それはそれでウソではないとはいえ半身しか食えてないので、今回はガッツリと食ってもらいたい気もしていますね」

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最終更新:2/22(水) 18:02
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